Publickey新野淳一のIT羅針盤

ハイパーコンバージドインフラストラクチャ市場を主導する2社が迎えた転機。市場が向かう先は「エコシステムの構築」

2016年はハイパーコンバージドインフラストラクチャをリードしてきた新興企業のNutanixとSimpliVityがそれぞれの転機を迎えた年でした。現在のハイパーコンバージドインフラストラクチャ市場を改めて俯瞰しつつ、今後のハイパーコンバージドインフラストラクチャ製品がどのように進化していくのかを展望します。

 「ハイパーコンバージドインフラストラクチャ」とは、ローカルストレージを内蔵したサーバーを高速なネットワークで束ねて、コンピュータの能力とストレージの能力や容量をスケールアウト可能にするソフトウェアを備えたシステムです。

 

このコラムでハイパーコンバージドインフラストラクチャを紹介する記事「『ハイパーコンバージドインフラストラクチャ』という、統合サーバーの新潮流が登場」を書いたのは2015年10月。いまから1年半近く前でした。

 

このときはまだ、日本国内でハイパーコンバージドインフラストラクチャの知名度も低く、当時の事例も仮想化デスクトップ(VDI)の運用基盤としてポイントソリューションで使われるのが主流でした。

 

しかし2016年10月に米ITアドバイザリ企業のガートナーは「ハイパーコンバージドインラフラストラクチャは主要ベンダーに加え、急増するスタートアップ企業(なかには成長し切っているものもあるが)までが参入し、統合システム市場の破壊的な存在になっている。要求されるワークロードにもよるが、SANとブレード/ラックサーバーベースのソリューションがどのような役割を担うのか、ITインフラ運用のリーダーは今後も理解しておくべきである」(*)と、サーバーとストレージ、ネットワークが統合された「統合システム」の市場調査レポートで述べています。

 

米国のITアドバイザリー企業ガートナーが2016年10月に発表したリサーチレポート
(*)レポート名: Magic Quadrant for Integrated Systems
発行日: 10 October 2016
著者名:Andrew Butler et al.
https://www.gartner.com/doc/reprints?id=1-3E3UTVI&ct=160804
(閲覧頂くには、Gartner社との契約/ログインIDが必要です)

 

このGartner社リサーチの言及の通り、現在のハイパーコンバージドインフラストラクチャ市場はマイクロソフト、シスコ、Dell EMC、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)など主要な大手ハードウェアベンダー、ソフトウェアベンダーが参入。仮想化システム基盤の本命を争う激しい競争が始まっています。

 

 

NutanixはNASDAQ上場、SimpliVityはHPEが買収

 

そしてもう1つ、ガートナーがリサーチ内で述べている点があります。それは“ハイパーコンバージドインフラストラクチャ市場の7割を超える売上をNutanixとSimpliVityが占めている”(*)というのです。

 

この2社はともに2009年創業のスタートアップとしてハイパーコンバージドインフラストラクチャ市場を開拓し、牽引してきました。特にNutanixは早くから日本市場にも参入し、日本国内のハイパーコンバージドインフラストラクチャ市場をいち早く切り開いてきた存在です。

  

そして最近、この2社はともに大きな転機を迎えました。まず、Nutanixは2016年9月、NASDAQに上場を果たしました。

 

新興ハードウェアベンダーにとって重要なのは、資金調達と事業継続に対する担保です。ハードウェアを製造し在庫を保有して販売するというビジネスを回していくには大きな資金が必要です。そしてエンタープライズ市場では、継続して製品とサポートが提供され得る安定した資金と経営状態を備えたベンダーかどうかは、顧客が製品を選択するうえで重要な判断材料となっています。

 

Nutanixは、NASDAQに上場することで資金力と経営に対する安定性の両方を(少なくとも外形的に)獲得できるようになりました。同社はこれをテコに、ハイパーコンバージドインフラストラクチャへ参入してきたDell EMCやHPE、シスコといった巨大な企業群を迎え撃つことを明確に示したわけです。

 

一方のSimpliVityは、HPEによって買収されることが2017年1月に発表されました。HPEは自社製のハイパーコンバージドインフラストラクチャ製品を以前から展開していましたが、それほど存在感を示せていませんでした。これがSimpliVityの買収によって、一挙にハイパーコンバージドインフラストラクチャ市場で主要なプレイヤーへと躍り出ることになります。

 

Dell EMCブランドによる製品展開、Windows Serverでも構築可能に

  この2社以外にも大きな動きと言えるのは、昨年2016年に完了したDellによるEMCの買収です。買収されたEMCはVMwareの親会社でもあり、EMCは自社ブランドでVMwareのvSphere、VSANをベースにしたハイパーコンバージドインフラストラクチャ製品を展開してきました。

 

今回の買収により、企業向けのサーバー市場で存在感を持つDellが自社ブランド「Dell EMC」で、企業向けの仮想化基盤ソフトウェアとして突出した存在であるVMwareをベースにしたハイパーコンバージドインフラストラクチャ製品の展開が行えるようになったことは注目すべき動きと言えるでしょう。

 

そして今後注目される可能性があるのが、マイクロソフトによるWindows Server 2016によるハイパーコンバージドインフラストラクチャへの対応です。

 

ハイパーコンバージドインフラストラクチャを実現するには、仮想化ハイパーバイザーとスケールアウトストレージを実現するソフトウェア、そして全体を管理するソフトウェアなどが必要です。

 

マイクロソフトは「Windows Server 2016 Datacenter Edition」でこれらをすべて搭載。Windows Server 2016 Datacenter Editionがあれば、サーバーを束ねてハイパーコンバージドインフラストラクチャを実現できると説明しています。

 

とくにカギとなっているのがスケールアウトストレージを実現する「Storage Spaces Direct」という新機能を搭載したことです。

 

 

(※図版2のキャプション)

マイクロソフト「Windows Server 2016 Datacenter Edition」は、ハイパーコンバージドインフラストラクチャを実現するために必要な仮想化ハイパーバイザー、スケールアウトストレージを実現するソフトウェア、さらに全体を管理するソフトウェアなどのすべてを搭載。とくに注目はスケールアウトストレージを実現する「Storage Spaces Direct」という新機能だ(マイクロソフトの資料より)

   マイクロソフト

 

 

いままでハイパーコンバージドインフラストラクチャを実現するには、NutanixやSimplivity、あるいはVMwareのvSphereとVSANの組み合わせなど、専用のソフトウェアが必要でした。これがWindows Serverだけで構築できるとなれば、Windows Serverとサーバーを組み合わせたハイパーコンバージドインフラストラクチャという新たな選択肢がサーバーベンダーから登場する可能性があります。

 

 

次のステップはクラウド対応とコンテナ対応、そしてエコシステム

現在のハイパーコンバージドインフラストラクチャ製品は、おおむね仮想化システム基盤として成熟しつつあり、VDIから一般のアプリケーションの実行、そしてミッションクリティカルなデータベース基盤まで、幅広い用途に対応できるようになってきました。

 

しかし、企業のシステム基盤として求められる機能は多岐にわたります。例えばプライベートクラウド対応。すでにDell EMCは大規模向けのハイパーコンバージドインフラストラクチャ製品である「VxRack」にあらかじめOpenStackを搭載した「Neutrino」を展開しています。顧客はすぐにOpenStackを用いたスケーラブルなプライベートクラウドを利用でき、しかも自動的にアップデートなども行われるというものです。

 

仮想化基盤がプライベートクラウドへと自動化や管理レベルを高めていくのは自然な流れであり、ハイパーコンバージドインフラストラクチャも同じようにプライベートクラウド基盤への進化をたどるはずです。競合企業も同様のコンセプトの製品展開をしてくる可能性は高いでしょう。

 

さらにパブリッククラウドとの連係によるハイブリッドクラウドの実現、新たな仮想化手段のひとつとして主流になるであろうDockerコンテナへの対応も残されています。ネットワークのセグメント化やロードバランス、ファイアウォールといったきめ細かいネットワークサービスの実装も課題でしょう。

 

例えばパブリッククラウドのAWSやAzureを見てみれば、ここに挙げた機能のほとんどはもちろん、コンテナ対応やネットワークサービスなどさまざまな機能がポータルからの操作で導入できるようになっています。さらにサードパーティのさまざまなアプリケーションも、いわゆるアプリストアから簡単に導入可能となっています。

 

Nutanixは「エンタープライズのためのAWSを実現する」をうたっています。同社を筆頭にすべてのハイパーコンバージドインフラストラクチャは、いまAWSやAzureが実現しているサービス、つまりポータルから簡単にインフラを構築し、さまざまなサービスを組み合わせて、アプリケーションも容易に導入できるといったものを実現しようと目論んでいるはずです。

 

こうした多様で多層なサービスの実現に欠かせないのはハイパーコンバージドインフラストラクチャを中心としたエコシステムでしょう。成功しているパブリッククラウドは、その優れた技術力でサービスを開発するだけでなく、システムインテグレーターからソフトウェアベンダー、ユーザーコミュニティーなど、顧客の課題を解決する人たちのエコシステムができあがっています。

 

ハイパーコンバージドインフラストラクチャ市場で成功するには、引き続き充実した機能やサービスを追加していく技術力がベンダーに求められるだけではなく、エコシステムをその周囲に作り上げていくことができるか、という段階へ進もうとしています。

  

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※このコラムは不定期連載です。

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新野淳一

新野淳一/Junichi Niino

ブログメディア「Publickey」( http://www.publickey1.jp/ )運営者

IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。新しいオンラインメディアの可能性を追求。

 

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