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x86サーバーを万能細胞として進化させる、データセンターの技術動向

大規模化するデータセンターの効率的な運営には徹底した自動化が不可欠です。その自動化と密接に関係するのが仮想化技術であり、そして仮想化技術の進化は、x86サーバーをサーバーとしてだけではなく、ネットワーク機器やストレージ機器としてもソフトウェアで使えるようにするという、新しいトレンドを生み出しています。

 

大規模データセンターの運用に不可欠な"自動化" 

 

図1●クラウドサービス「Microsoft Azure」のデータセンターでは1つのリージョンで最大60万台のサーバーが稼働(マイクロソフトの資料から)

図1 クラウドサービス「Microsoft Azure」のデータセンターでは
1つのリージョンで最大60万台のサーバーが稼働(マイクロソフトの資料から)

マイクロソフトのクラウドサービス「Microsoft Azure」のデータセンターでは、最大で1カ所(リージョン)あたり約60万台のサーバーが稼働していることを同社が2014年に明かしました。

また、2014年末にオープンしたIBMのクラウドサービス「SoftLayer」の東京データセンターには、1万5000台のサーバーが設置されたと同社CEOのLance Crosby氏が記者会見で述べています。

 

 

 

 

 

ちなみに、2013年の国内におけるx86サーバーの出荷台数は推定で約36万台と言われていますので、これらのデータセンターがいかに巨大か、おわかりいただけるでしょう。図1のマイクロソフト資料では60万台級のデータセンターがフットボール場約16面分の広さを占めていることを示しています。

 

巨大なデータセンターを効率的に運用する上で不可欠なのは、仕組みを徹底的に自動化することです。数万台規模のサーバーが稼働するデータセンターの内部で、人力でネットワークケーブルをネットワーク構成に合わせて抜き差ししたり、必要な構成のサーバーを人力でネットワークに接続したり、ストレージをつなげたりといった構成をすることが非現実的であることは容易に想像できるでしょう。

 

つまり、要求されるシステム構成のすべてを、人力を介さずソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって、自動的かつ瞬時に実現できてこそ、クラウド時代における大規模なデータセンターの効率的な運用が可能になるのです。

 

 

仮想化とSoftware-Definedは自動化に関係している

物理サーバーから仮想サーバーを作り出す「サーバー仮想化」技術、そしてネットワーク機能をソフトウェアで定義する「Software-Defined Networking」、ストレージをソフトウェアで定義する「Software-Defined Storage」といった技術はすべて、このデータセンターの自動化と密接に関係しています。

 

そして、この仮想化やSoftware-Definedの進化と対をなして起きているのが、コンピュート、ネットワーク、ストレージといった機能を実現するハードウェアの“汎用化”というトレンドです。簡単に言えば、サーバーはもちろん、ネットワークもストレージも、すべてデータセンター内のx86サーバーで代用してしまうということです。

 

もちろん、すべてがx86サーバーで代替できるわけではなく、コアルーターや高速処理ストレージなど、ハイエンドは汎用サーバーでは代替できないとも言われています。とはいえ、ここでは全体として大きなトレンドになっている、データセンター内の機能のソフトウェア化について紹介しましょう。

 

 

仮想サーバー上で実現されるネットワーク機能

図2「VMware NSX」は物理サーバー上に仮想化ネットワークを構築、スイッチやルーターなどさまざまな機能を提供する(VMwareの資料から)

図2「VMware NSX」は物理サーバー上に仮想ネットワークを構築、
スイッチやルーターなど様々な機能を提供する(VMware の資料から

 

ネットワーク機能をx86サーバーとソフトウェアで実現している代表的な例はVMwareの「VMware NSX」でしょう。VMware NSXは「VMware vSphere」と統合されているネットワーク仮想化ソフトウェア。x86サーバーにインストールすることで、ソフトウェアによってスイッチ、ルーター、ファイアウォールなどのネットワーク機能を実現します。

 

 

 

 

 

 

 

  

例えば、データセンターに対して「3台のスイッチで構成されたネットワークをルーターとファイアウォールを経由してインターネットに接続する」という指令を出したとき、物理的なスイッチやルーター、ファイアウォールの機器を調達して接続するのは手間も時間もかかります。これらをすべてx86サーバーとそこにインストールしたソフトウェアだけで実現すれば、効率的な自動化が実現できるのです。

  

しかし、これまでネットワーク構成に必要とされてきたネットワーク機器がx86サーバーで代用されることは、従来のネットワーク機器ベンダーにとって脅威と見られます。一方で、これを機会と捉えて多くの企業がネットワーク仮想化やSoftware-Defined Networkと呼ばれるこの分野を手がけ始めています。例えば、ブロケードコミュニケーションズシステムズはSANスイッチやイーサネットスイッチの機器ベンダーとして知られていますが、オープンソースで開発されているソフトウェアルーター「Vyatta」の開発元であるVyatta社を2012年に買収。ソフトウェアによるネットワーク機能、Software-Defined Networkの実現をVyattaブランドのソフトウェアで積極的に展開する旨を明らかにしています。

  

日本発のスタートアップとして知られるMidokuraも、2014年にオープンソース化され話題となったネットワーク仮想化ソフトウェア「MidoNet」をリリースしています。MidoNetもスイッチやルーティング、ロードバランス、ファイアウォール、NATなどをx86サーバー上のソフトウェアで提供しますが、最大の特長は、分散型アーキテクチャによってスケールアウト構成を実現、性能や可用性を大きく高めることができルーターめ、大規模データセンターに適応するとしている点です。

 

 

 

ソフトウェアで実現されるストレージ

ストレージの分野でも同じことが起きています。ここでの代表例にもVMwareを挙げましょう。

 

 

図3「VMware VirtualSAN」は高速なSSDを巧みに用いることでサーバー仮想化の機能をすべて実現(VMwareの資料から)

図3「VMware VirtualSANは高速なSSDを巧みに用いることで
サーバー仮想化の機能をすべて実現(VMwareの資料から)

 

サーバー仮想化の機能を実現するには、高速な共有ストレージアレイをストレージ専用のネットワークで接続することが不可欠でした。しかし2014年にリリースされた「VMware VirtualSAN」(VMware vSAN)は、仮想化ハイパーバイザーが稼働する物理サーバーに内蔵された高速なSSDを巧みに用いることで仮想的な共有ストレージアレイを作り出し、物理的に共有ストレージアレイを使わなくとも物理サーバー間における仮想マシンの移動などサーバー仮想化の機能をすべて実現できるようにしました。

 

 

実はストレージベンダーの製品でも、汎用ハードウェア化は進んでいるのです。現在、ストレージベンダーから販売されているストレージ機器のローエンドからミドルエンドの製品の大多数では、SSDやHDDを搭載したx86サーバーにベンダー専用のストレージソフトウェアをインストールしたものであることは、ストレージに詳しいエンジニアの間ではよく知られている事実なのです。

 

つまり、ストレージ機器に付いているストレージベンダーのロゴの下には、台湾あたりで製造されたx86サーバーが隠れているのです。いえ、最近ではこのことを隠すベンダーも少なくなってきました。取材をすると「弊社のストレージは汎用のx86サーバーを用いているから低コストなのです」と明確に答えてくれるストレージベンダーは増えてきています。

 

最近では、「EMC Atmos」のようにストレージベンダー自身がストレージソフトウェアの製品化を少しずつ進めるようになってきました。例えばRed HatがCephやGlusterといったストレージソフトウェアを買収して製品化したり、NexentaやBashoといったストレージソフトウェアベンダーが存在感を増したりなど、動きも活発になってきました。

 

 

インテルのRack Scale Architecture

 

図4●2013年4月に行われた「IDF Beijing 2013」におけるインテルのRack Scale Architectureの説明図

図4 2013年4月に行われた「IDF Beijing 2013」における
  インテルのRack Scale Architectureの説明図

ネットワークもストレージも、x86サーバーをベースにソフトウェアで実現されるというトレンドを紹介してきましたが、そのx86サーバー自身も性能や機能、容量をもっとソフトウェアで定義できるようにしようという動きは以前から進んでいます。

 

インテルが数年前から提唱している「Rack Scale Architecture」はその1つです。

 

現在のサーバーは、1台の筐体の中にプロセッサ、メモリなどが組み込まれ、その性能や機能の範囲内でアプリケーションが稼働しています。これをラック全体に押し広げ、1つのラック内に何百、何千というプロセッサコア、何百テラバイトものメモリといったものをプールし、必要に応じてそこからプロセッサ性能やメモリを切り出し、サーバーとして利用する、というのがこのアーキテクチャです。

 

これが発展すれば、ラック内で柔軟にコンピュート、ネットワーク、ストレージを切り出し、機能をソフトウェアで実現し、アプリケーションを走らせる高速かつ柔軟な基盤となっていくでしょう。

 

 

x86サーバーは万能細胞のように

2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授の作り出した「iPS細胞」は、別名「万能細胞」と呼ばれています。iPS細胞は筋肉や皮膚や神経、内臓など、生物の体内にあるあらゆる細胞へと変化できる多能性を備えていルーターめです。

 

Software-Definedの進化は、まるでx86サーバーをデータセンターにおける万能細胞にしようとするものなのです。汎用のx86サーバーをもとに、さまざまな性能と機能を備えた仮想サーバー、ネットワーク機器、ストレージ機器へとソフトウェアの力によって変貌させていくのです。

 

これによって、データセンターはいちいちサーバー、ネットワーク機器、ストレージ機器といった複数の物理的な機器をあらかじめ用意する必要がなくなります。故障してもすぐに別のマシンで代替できるようになり、ネットワークやストレージの機能をいつでもすぐに提供できます。機器の種類が統一できルーターめ、メンテナンスや運用がシンプルになるといったメリットもあります。

 

データセンターの利用者にとっても、データセンターを低コストで利用でき、しかも希望する構成が瞬時に提供されるなど、数多くのメリットを享受できるのです。

 

 

※このコラムは不定期連載です。

※会社名および商標名は、それぞれの会社の商標あるいは登録商標です。

 

新野淳一

新野淳一/Junichi Niino

ブログメディア「Publickey」( http://www.publickey1.jp/ )運営者

IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。新しいオンラインメディアの可能性を追求。

 

 

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