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なぜインテルはアルテラを買収し、FPGAをXeonに統合しようとしているのか?

インテルは2015年6月2日、アルテラを約2兆円で買収することを発表し、Xeonプロセッサに「アルテラFPGA」を統合していくことを明らかにしました。アルテラはチップ内部のロジックをソフトウェアによってあとから自由に書き換えられるLSIの一種「FPGA」(Field Programmable Gate Array)と呼ばれるプロセッサの大手です。なぜインテルはアルテラを買収し、Xeonに統合しようとしているのでしょうか?

 

データセンターやIoTのニーズに合致したプロセッサ

 

インテルがアルテラを買収した狙いは、同社が買収時に発表したプレスリリースで以下のように記されています。

 

"(インテルとアルテラの技術の)組み合わせは新しい分野の製品を実現し、それはデータセンターやIoT(Internet of Things)市場のニーズに合致したものとなるだろう。インテルはアルテラのFPGA製品をインテルXeonプロセッサと組み合わせ、高度にカスタマイズされた統合製品を提供する計画である。"

 

インテルはロードマップとして、現在は別々のプロセッサとして提供されているインテルのXeonとアルテラのFPGAを、今後は1つのパッケージで提供し、将来的には両方を統合したプロセッサとして提供することを明らかにしています。

 

(図版)

 

つまり、データセンターやIoTのニーズに合致したプロセッサを作ること、そしてそのためにXeonプロセッサにアルテラのFPGAを組み込むこと、この2つが買収の直接的な狙いだとされています。

なぜXeonにFPGAを組み込むことがデータセンターやIoTのニーズに合致したプロセッサを作ることにつながるのか、この部分を読み解いていきましょう。

 

 

FPGAを利用して消費電力あたりの性能を向上

ご存じのとおり、データセンターの規模はクラウドサービスなどの市場拡大に伴って増大の一途をたどっており、1つのデータセンターで数万台から数十万台の規模でサーバーが設置され稼働し続けています。

こうしたデータセンターにかかるコストの中で最も大きいのが、サーバーの調達や運用にかかる費用よりも、データセンターが消費する電気代だとされています。

そのため、インテルはプロセッサの設計において、単純な性能向上ではなく消費電力あたりの性能を重視するようになりました。消費電力を抑えられればプロセッサが発生する熱そのものを小さくでき、その熱を冷ますための空調設備などデータセンターのファシリティも抑制できるため、ファシリティが消費する電力も抑制できるのです。

 

インテルがFPGAをプロセッサに統合しようと考える理由の1つが、この消費電力あたりの性能をさらに向上させる能力をFPGAが備えているためです。

それを世の中に広く知らしめた出来事の1つが、マイクロソフトが2014年に検索エンジン「Bing」の処理をFPGAで大幅に効率化したという発表でした。

マイクロソフトはFPGAを内蔵したサーバーを独自に開発。それを試験的に検索エンジンの処理に投入したところ、検索エンジンの処理に最適化したロジックを書き込んだFPGAは圧倒的な性能を実現。全体の性能を維持しつつ、サーバーの台数を半分に減らすことができたというのです。

この発表は、データセンターにおけるFPGAの可能性に一般の注目が集まるきっかけの1つだったと言えます。

 

 

FPGAは論理回路をソフトウェアで組み替えられる

FPGAとは、簡単に言えばプロセッサの論理回路の構成図をSRAM上に保持し、このSRAMの内容をソフトウェアで組み立てて書き換えることで、論理回路の構成を自由に書き換えることができるというものです。

 

初期のFPGAは、論理回路をソフトウェアで組み立てられるという特長から、プロセッサを生産する際のプロトタイプに用いられることが多かったとされていますが、現在では放送や通信といった産業向けから民生機器まで、さまざまな製品に組み込まれるデバイスとなっています。

FPGAは論理回路そのものをソフトウェアで組み替えることができるため、比較的小規模な処理ならそのまま論理回路に組み込んで、ハードウェアレベルのスピードで処理させることができるようになります。しかも、こうした処理を論理回路に複数並べて並列処理させることもできます。

これが、x86のような汎用プロセッサと比較してFPGAが高い処理性能を実現できるポイントです。前述のマイクロソフトの例も、特定の処理をFPGAによってハードウェアレベルのスピードで処理させたことによる高速化がもたらした結果でした。

 

 

FPGAで電力あたりの処理性能をさらに飛躍させる

インテルはXeonにFPGAを組み込んだプロセッサの用途として、ニューラルネットワークによる画像認識、データの暗号化、ビッグデータの圧縮といったものを挙げており、これらの処理はFPGAとの統合により2倍以上の性能向上になると説明しています。これらシンプルなロジックを大量に実行する処理はFPGAの得意とするところでしょう。

そして、こうした処理はまさにIoTで発生するビッグデータ処理で求められるものであるとも言えます。

 

XeonプロセッサにFPGAを組み込むことで、Xeonだけで処理するよりもビッグデータ関連の処理が2倍以上高速になり、電力あたりの処理性能も大幅に向上することが期待できます。これが、インテルがアルテラを買収することで実現しようとしていることなのです。

これまでプロセッサの性能向上は主に、2年ごとに半導体の集積密度が2倍になるというムーアの法則に従って実現されてきました。しかしムーアの法則は登場からすでに50年が経ち、そろそろ限界が見えてきたと言われています。

ムーアの法則の限界が訪れると、集積度を高める以外の方法でプロセッサの性能を向上させていかなければならなくなります。FPGAの採用はインテルにとって、そうした意味をも含むものだと考えられるのです。

 

 

FPGAの統合で大きく変わるプラットフォーム

インテルは「2020年までにクラウドのノードの3分の1がFPGAを使うだろう」と予想しています。これは予想であるとともに、アルテラを買収したインテル自身による宣言とも言えます。

インテルは業務アプリケーションの基盤となるサーバーやデータセンター向けサーバーのプロセッサベンダーとして、圧倒的なシェアを持つベンダーです。そのインテルがXeonプロセッサにFPGAを統合していくということは、IT業界全体に大きな影響を引き起こしていくのは確実です。

 

例えばFPGAと従来のプロセッサを統合したチップの上で稼働する仮想化ハイパーバイザーというのはどうあるべきなのでしょう。あるいはFPGAを活用するOSや、x86プロセッサとFPGAの両方をターゲットとする開発ツールやプログラミング言語とはどうあるべきなのかなど、これまで基盤とされてきたソフトウェア環境も大きな見直しが行われる可能性があります。

そして、いままでFPGAに縁のなかったような業務アプリケーションのプログラマーも、FPGAを活用する機会がめぐってくることになります。そのとき、プログラマーにはどのような能力が求められるのでしょうか? あるいはどのようなライブラリやフレームワークが求められるのでしょうか。

 

インテルがアルテラを買収したことは、大袈裟かもしれませんが、エンタープライズITにおけるプラットフォームの大きな変化の始まりであったと、歴史の転換点として振り返られる日が来るのかもしれません。

 

※このコラムは不定期連載です。

※会社名および商標名は、それぞれの会社の商標あるいは登録商標です。

 

新野淳一

新野淳一/Junichi Niino

ブログメディア「Publickey」( http://www.publickey1.jp/ )運営者

IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。新しいオンラインメディアの可能性を追求。