日本企業がランサムウェアに狙われる理由(前編)
日本企業を狙ったランサムウェア被害は、いまや工場停止や物流停滞、情報漏えいなど、社会全体に影響を及ぼす問題になっています。
その背景には、攻撃者から見て日本企業が「攻撃しやすく、実入りも良い」きわめて魅力的な条件が揃った標的に映っている現実があります。
本記事では前編と後編の2回に分け、前編ではこうした背景を攻撃者の視点から整理し、日本企業が狙われやすい理由を読み解きます。
はじめに
昨今、日本国内ではランサムウェアの攻撃により、工場の生産が止まる、サービスが利用できなくなる、流通が止まる、個人情報が流出するといった、社会全体に影響を及ぼす大きな被害が発生しています。
なぜ日本企業の被害が増えているのでしょうか?
攻撃者の視点に立つと、日本企業は他の地域の企業に比べて「攻撃しやすく、かつ実入りが良い」という、きわめて魅力的な条件が揃ったターゲットとして映っています。
では、攻撃者目線でその理由について見ていきたいと思います。
日本語の壁の突破

かつて日本企業を狙うには、日本語の壁があり、自然なフィッシングメールやビジネス詐欺メールを作るには手間とコストがかかっていました。
しかし生成AIの普及によって、攻撃者は自然な日本語の文面を短時間かつ低コストで作れるようになりました。
つまり、日本企業向け攻撃のハードルは下がり、以前よりも狙いやすい市場になったといえます。
「踏み台」にできる手薄な中小企業・子会社が豊富にある

日本では中小企業が企業全体の99.7%を占めており、大企業と比べて、これらの企業は一般的にセキュリティ対策に十分なリソースを割くことが難しく、侵入の足がかりとして狙いやすい環境が広く存在しています。
さらに日本では、多数の取引先や委託先と密接につながるサプライチェーン構造を持つ企業が多く、ひとたび中小企業や子会社への侵入に成功すれば、その接続関係を利用して、より価値の高い大企業側へ到達できる可能性があります。
攻撃者から見れば、正面から堅牢な大企業を攻めるよりも、周辺の比較的弱い取引先を突破口にする方が、低いコストで大きな成果を狙えるわけです。
その意味で、日本の企業構造は、攻撃者にとって「手薄な入口が多く、侵入後にはより高額な身代金を期待できる本命企業へつながりやすい」というメリットが存在します。
侵入後の「拡散」や「隠蔽」が容易である

日本企業の多くは、依然として「侵入されないこと」を前提にした予防的な対策に重きを置いており、侵入後の封じ込めや復旧を見据えた備えは十分とはいえません。
加えて、導入済みのセキュリティ対策についても、有効性の検証や継続的な見直しが不十分なまま運用されているケースがあります。
攻撃者から見れば、これは侵入後にすぐ検知・封じ込めされにくい環境を意味します。初動の遅れが生じれば、その分だけネットワーク内での横展開、権限奪取、バックアップ破壊、最終的な暗号化までを段階的に進める時間を確保しやすくなります。つまり日本企業は、侵入そのものだけでなく、侵入後に攻撃を完遂するための時間も稼ぎやすい標的として映るのです。
「身代金を支払ってくれる」というターゲットとしての価値

国際的なサイバー犯罪グループから見れば、日本企業は「資金力がある」標的です。また、業務停止による信用失墜や取引先への影響を強く意識する企業も多いため、攻撃者にとっては、暗号化や情報流出をてこに交渉へ持ち込みやすく、収益化を見込みやすい市場として映ります。
実際、国内の被害企業のうち、身代金を支払った割合は4割程度*¹ とされています。
諸外国と比べて突出して高い水準ではないとしても、絶対数として見れば依然として無視できない規模です。
攻撃者からすれば、侵入しやすさに加え、一定の確率で金銭回収まで期待できる以上、日本企業は十分に採算の合う標的だと判断しやすいのです。
まとめ
ここまで見てきたように、日本企業がランサムウェアの標的になりやすいのは、単に攻撃が増えているからではありません。
生成AIによって日本語の壁が下がり、手薄な中小企業や子会社を足がかりにしやすく、侵入後も拡散や隠蔽の時間を確保しやすい。さらに、一定の確率で身代金の支払いまで期待できる――。攻撃者から見れば、日本企業は「侵入しやすく、攻撃を完遂しやすく、収益化もしやすい」市場として映っているのです。
つまり、日本企業のランサムウェア被害は偶発的なものではなく、日本特有の企業構造や対策のあり方が生み出している構造的な問題だといえます。
だからこそ必要なのは、「侵入されないこと」だけを前提にするのではなく、「侵入されること」を前提に、封じ込め、復旧、拡散防止まで含めて対策を見直すことです。
後編では、こうした現実を踏まえ、日本企業が持つ構造的な弱点を明らかにしたうえで、日本企業が優先して取り組むべき対策について整理していきます。