働き方改革で注目を集める「RPA」。その実力と可能性とは?
ソフトウェアのロボットによって人間が行っている定型的なパソコン作業を自動化し、効率化してしまおうというのが、いま注目を集める「RPA(Robotic Process Automation:ロボティック・プロセス・オートメーション)」です。RPAとはどのようなもので、なぜ注目されているのでしょうか。
業務の改善や効率化のために、これまでIT分野ではさまざまなシステムが登場してきました。例えば会計システムならば企業の会計を自動化し、顧客管理システムや営業支援システムであれば営業や販売を支援し、メールやチャットなどであれば従業員や顧客とのコミュニケーションを効率化してきました。
こうしたソフトウェアとは少し異なるアプローチで業務の効率化や自動化を実現してくれるのが、最近注目されている「RPA(Robotic Process Automation:ロボティック・プロセス・オートメーション)」です。
これまでITで実現されてきたシステムの多くは、企業内のなんらかの業務をターゲットにして、効率化や自動化を進めるものでした。ところがRPAは、人間が手間ひまをかけて行っていた、いわば“手作業”をコンピュータが肩代わりすることで、業務の自動化や効率化を実現しようというものです。そこでRPAあるいはRPAで実現される機能は「ロボット」「デジタルワーカー」「デジタルレイバー」などと呼ばれることもあります。
それゆえに、RPAは非常に広範囲かつ汎用的に、業務を効率化する可能性を秘めているわけです。
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RPAとは「人間の代わりに定型的な作業をするロボット」
RPAによる効率化の例として、経理部門の担当者が経費精算したい社員から毎日のように経費精算用Excelシートを受け取っている業務があるとしましょう。
担当者はそれぞれの経費の内容を確認し、上長への確認などの後で経費を承認すると、次にその経費を全社集計するために金額欄をコピーし、全社集計用シートを開いてペーストする、という定型的な作業を行っています。
経理部門に限らず、こうした定型的なコピー&ペーストの作業を人間が繰り返し行うことは、多くの職場で発生しているのではないでしょうか。
こうした単純作業の代替は、とくにRPAの得意とするところです。RPAによってこうした単純作業をソフトウェアで作られたロボットに教えることができ、その結果、人間の代わりに速く正確に、就業時間内であろうと時間外であろうと、あらかじめ教えてある作業をそのロボットに忠実に実行させることができるようになります。
もちろん、RPAの製品や使い方によっては、定型的な作業だけでなく、もっと複雑な作業を柔軟に実行させることも可能です。
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国内外のベンダーから登場するRPA製品
RPAは、国内ではRPAテクノロジーズの「BizRobo!」やNTTアドバンステクノロジの「WinActor」、海外では「Blue Prism」「UiPath」「Automation Anywhere」など、多くのベンダーから製品がリリースされています。
製品ごとにそれぞれ特徴はありますが、一般にWindowsデスクトップ上でファイルを開いたりマウスをクリックしたりといった人間の操作を記録し、それを再生することで基本的な繰り返し作業を実現する仕組みを備えています。そして、その記録をカスタマイズすることで、より柔軟な処理や複雑な処理をロボットに行わせることができるようになります。
RPAは機械的な反復作業をもっとも得意としていますが、条件分岐などを用いた複雑なカスタマイズやルールを記述していくことで、状況に応じて挙動を変えていくような高度な自動化も可能になります。
ロボットはWindowsデスクトップ上で実行されるもの、クラウドなどサーバー上で実行されるもののどちらもありますが、ロボットは人間と同じようにキーボードやマウスを操作していくため、基本的には人間が扱うアプリケーションであればどんな業務アプリケーションであっても、WebブラウザやExcelのようなオフィスソフトウェアであっても、対応可能です。
これまで業務ソフトウェアの連携の実現には、プログラムを書く必要があり、しかも両者のアプリケーションにはプログラムから呼び出せるAPIが求められました。しかしRPAならば、プログラムを開発するよりも容易に、手軽に(製品によってはエンドユーザー自身が)、自動化を実現できるようになっています。しかも画面上に表示されるものならコピー&ペーストなどを駆使してデータを受け渡せるので、APIなども必要としない柔軟性や拡張性があります。
そしてRPAでこれから期待されているのは、AIや機械学習との組み合わせです。例えばRPAと画像読み取り機能を組み合わせ、ファクスや紙の書類のスキャン画像から必要な値を読み取って、アプリケーションの画面へ値を入力するといったことが考えられます。また、RPAの動作対象となる業務アプリケーションの画面がバージョンアップで変更になったとしても、画面の内容を認識して自動的に新画面に適応するといった可能性が考えられます。
もちろんそれだけではなく、RPAに知性を持たせることで、より人間の業務を代替できる適用範囲が広がり、複雑な処理やより柔軟な処理を任せることができるようになるでしょう。
なぜRPAが注目されているのか?
いまRPAが注目されている要因は複数考えられます。企業内で業務アプリケーションの利用が普及・発展したことで、経理や営業、カスタマサービスといった主要な業務のそれぞれがアプリケーションでカバーできるようになってきた一方、それぞれの業務アプリケーションを利用している現場で発生する「業務の隙間をつなぐような細かいソリューションのニーズが高まってきた」ことも、ひとつの要因です。
本来、こうしたアプリケーション間連携はそれぞれのAPIを利用して、プログラムできれいにつなぐことが理想的ではあります。しかし前述のように、プログラムの開発は一般に複雑で時間がかかります。また、すべてのアプリケーションが十分便利なAPIを備えていることは滅多にありませんし、もしあったとしても、いちいちプログラムを開発する時間やコストもないことがほとんどでしょう。であれば、画面経由でコピー&ペーストによる値の受け渡しが一番簡単で速いということが往々にしてあり得ます。
しかも業務の現場におけるニーズは時々刻々と変化するため、プログラムをがっちり組んでしまうと、かえって柔軟性が失われるということもあります。こうした状況では、RPAのような方法で比較的簡単に自動化や機械化を実現し、場合によってはすぐやり直せるようなソリューションの方が向いているわけです。
そして、もう1つRPAが注目される要因として、日本国内の事情ですが「働き方改革の道具としてのRPA」という点も挙げられます。
多くの企業ではホワイトカラーの生産性を上げ、労働時間を短縮したり柔軟な働き方を実現したりしようとしています。そのためにはコンピュータに任せられる定型的な作業はできるだけコンピュータに行わせるべきであり、そのツールとしてRPAを使おうとしているわけです。
RPAを導入することは、すなわちホワイトカラーの作業の中からほとんど価値を生まない定型的な作業を炙り出し、それをコンピュータに代替させていくことです。そうすることで本当に価値がある業務にホワイトカラーの時間を割り当て、集中して取り組むべき環境を作り上げることも可能になるのです。
RPAでひとまず自動化や効率化を進めたら、より業務の本質的な効率化を考える余裕もできるはずです。そしてそれが実現してこそ、RPA導入による本来的なメリットを現場が享受できることになると言えるでしょう。
※このコラムは不定期連載です。
※会社名および商標名は、それぞれの会社の商標あるいは登録商標です。
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新野淳一/Junichi Niino
ブログメディア「Publickey」( http://www.publickey1.jp/ )運営者。IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。新しいオンラインメディアの可能性を追求。