OpenAIやAnthropicが受託開発ビジネスに参入、AI企業はSIerの競合となり得るのか?

Publickey新野淳一IT羅針盤

OpenAIやAnthropicが受託開発ビジネスに参入、AI企業はSIerの競合となり得るのか?

「フォワードデプロイドエンジニア」(Forward Deployed Engineer:FDE)と呼ばれるエンジニア職がにわかに注目を集めている。OpenAIやAnthropic、GoogleなどのAI企業がこぞってFDEビジネスを展開し、顧客向けのシステム開発に乗り出そうとしているのだ。果たしてFDEはシステムインテグレ―ター(SIer)の競合となっていくのか。

大手AI企業が積極展開する「FDE」

生成AIの分野を中心に「フォワードデプロイドエンジニア」(FDE)が注目を集め始めています。一般的にFDEとは、生成AIを用いて顧客の課題を解決するためのシステム開発を顧客の現場で顧客と共に開発、実装していくエンジニアと理解されています。つまり顧客の前線に展開し、そこで生成AIを用いたソリューション提供を行うことを指します。

 

2026年5月、OpenAI、Anthropic、Google Cloudという生成AI業界を代表する3社が相次いで、このFDEに関する大規模な展開姿勢を明らかにしました。

 

「ChatGPT」の開発元であるOpenAIはFDEビジネスのための新会社「OpenAI Deployment Company」の設立を発表。「Claude」の開発元であるAnthropicも、投資会社のBlackstoneやゴールドマンサックスなどと共同で社名未定ながらFDEサービス企業を立ち上げると発表しました。

 

そしてGoogle Cloudも、アクセンチュアと共同でFDEを中心とした「Gemini Enterprise Acceleration Program」の提供を開始すると発表しており、さらにGoogle Cloud東京オフィスでもFDEの募集を開始したことが明らかになっています。

FDE注目の背景に「米国の軍事行動」

こうしたFDEの急速な盛り上がりの契機として、データ分析やAIを提供する企業「Palantir Technologies」の成功があります。

 

同社は以前から米国の国防機関や諜報機関向けにFDEを展開、衛星画像やドローン映像など膨大な軍事情報を分析し、攻撃作戦の立案や実行を支援するシステムを開発してきました。

 

そして、それが最近の米国の軍事行動において非常に有効なシステムであると知られるようになったことが、FDEが注目され始めた背景のひとつと言われています。

 

同時に、このケースは単に生成AIを導入するだけでは顧客はその能力を生かすことはできず、顧客の課題に合わせたデータの基盤化や整備、プロンプトの設計、ハルシネーションへの対策、既存システムとの連携、適切なインターフェイスの開発、セキュリティ要件への対応など、幅広い専門知識と深い現場理解の上でこそ、生成AIを活用したシステム構築が可能になることを如実に示す好例ともなりました。

 

すなわち、生成AIを多くの企業が活用するにはその企業の現場に合わせたソリューションの提供が必要であり、それがFDEへの急速な積極展開に大手AI企業を向かわせた要因でもあるのです。

SIerのビジネス領域を侵食していくFDE

顧客の現場で顧客の課題を把握し、そのソリューションとなるシステムを構築するというFDEの役割は、大枠においてシステム要件の把握から実装や運用を担ってきたSIerやコンサルティング企業の競合となり得る存在です。

 

ただ、両者には違いもあります。AI企業が展開するFDEの主眼はあくまでもAIを活用したソリューションの構築です。彼らはAIを中心としたスペシャリストであり、従来の基幹系システムの設計や開発、保守、あるいはレガシーシステムのマイグレーション、複数ベンダー製品を組み合わせたシステム構築といったSIerが得意とする部分は専門領域ではありません。

 

ビジネスモデルの点でも、FDEを展開するAI企業とSIerは異なります。AI企業が目指すのは積極的かつ継続的にAIサービスを使ってもらうことであり、それによって収益を得ることです。ソリューションの構築費用やエンジニアの人月費用で売上げを立てることはビジネスの中心ではありません。

 

しかしながら、FDEとSIerの専門領域やビジネスモデルは違っても、FDEを展開するAI企業が従来のSIerのビジネス領域に進出していくことは間違いありません。

 

生成AIが持つ大きな能力と可能性は誰の目にも明らかです。今後のエンタープライズシステムにおいて生成AIの機能をどのように生かしていくかはシステム構築における重要な課題となることも確かです。その意味で、FDEを展開し始めたAI企業は十分にSIerの競合となり得るでしょう。

 

OpenAI、Anthropic、Google Cloudといった圧倒的な規模と能力を背景にした大手AI企業はもちろん、今後登場してくるであろうFDEを強みのひとつに掲げる新興企業たちによるSI市場の浸食までSIerは警戒していかなければなりません。

AI企業を迎え撃つ体制をつくる

AI企業の進出に対してSIerが対抗するには、その強みである業務知識や既存システムに対する知識などを生かしつつ、さらに生成AIの知識と経験を身につけて自らがFDEのような能力を顧客に提供することが考えられます。

 

これによりAI企業を迎え撃つ体制は十分につくれるはずです。とくに特定のAI企業を背負ったFDEに対して、技術やベンダーに関してオープンなスタンスで提案と提供ができる立場のSIerがほとんどです。

 

そうしたベンダーニュートラルな立場から、AIも含む適切なソリューションを構築することを続けていけるのであれば、SIerは今後も顧客から信頼される存在であり続けるのではないでしょうか。

※このコラムは不定期連載です。
※会社名および商標名は、それぞれの会社の商標あるいは登録商標です。

新野淳一

新野淳一Junichi Niino

ブログメディア「Publickey」( http://www.publickey1.jp/ )運営者。IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。新しいオンラインメディアの可能性を追求。