「ハイパーコンバージドインフラストラクチャ」という、統合サーバーの新潮流が登場 | 東京エレクトロンデバイス

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「ハイパーコンバージドインフラストラクチャ」という、統合サーバーの新潮流が登場

サーバーとストレージを統合した新しい形態のシステムインフラ「ハイパーコンバージドインフラストラクチャ」が注目を集め始めています。小型でシンプルかつ高いスケーラビリティを持つというその仕組みは、「Software-Defined Storage」の技術がカギを握っています。

仮想化に必要なものがパッケージ化されたコンバージドインフラ

サーバーの仮想化が一般的となった現在、ハードウェアのシステムは、サーバーと共有ストレージアレイをSAN(Storage Area Network)で接続しつつ、イーサネットによるネットワークも構築するといった複雑な構成が求められるようになってきました。
そこで登場したのが、
あらかじめ仮想化に必要なシステム構成で提供される「コンバージドインフラストラクチャ」です。
サーバー、ストレージ、ネットワーク、それに仮想化ソフトウェアや管理ツールなどがパッケージ化され、
ベンダーによって動作保証がされているため、組み合わせや相性などを心配することなく、短時間で使い始めることができます。

コンバージドインフラストラクチャで有名なのは、例えばVCEの「Vblock」やシスコとNetAppによる「FlexPod」など。ほかにも、さまざまなベンダーから展開されています。
コンバージドインフラの「コンバージド(Converged)」には、集中や集約といった意味があります。
コンバージドインフラストラクチャを直訳するならば「集約型基盤」と言えるでしょう。
そしていま、その集約度をさらに高め、「ハイパー」という形容詞を冠した
「ハイパーコンバージドインフラストラクチャ」、直訳すれば「超集約型基盤」が注目され始めています。
VCEのコンバージドインフラストラクチャ「Vblock」

図1 VCEのコンバージドインフラストラクチャ「Vblock」

ハイパーコンバージドインフラストラクチャとは?
 
ハイパーコンバージドインフラストラクチャの技術的な構成要素は主に3つあります。
1つは、共有ストレージアレイを使わず、各サーバーのローカルストレージを使うこと。
そのサーバーを複数台ネットワーク接続してクラスタ構成とすること。
そしてSoftware-Defined Storage機能により、ローカルストレージをスケールアウトストレージにする機能を備えていることです。
図2はハイパーコンバージドインフラストラクチャの
代表的なベンダーである米Nutanix(ニュータニックス)社の製品です。
2Uサイズの筐体には4台のサーバーが内蔵され、各サーバーがローカルストレージを備えています。
各サーバーはイーサネットで接続されており、これ1台でサーバー4台によるクラスタ構成がとれるわけです。
さらにサーバーを増やし、5台、10台、20台とサーバーを増やしていくときにも、イーサネット経由ですべてのサーバーを接続することになります。
このようにストレージ内蔵のサーバーというシンプルな形態のハードウェアをネットワークでつないでいくだけというとてもシンプルな構成が、ハイパーコンバージドインフラストラクチャの最大の特徴です。
そしてそれゆえに、小さな筐体を最小構成として実現でき、高密度なクラスタを実現しやすくなっています。
Nutanixはハイパーコンバージドインフラストラクチャの専業ベンダーとしてこの市場をリードしてきましたが、ここ1年ほどでVMware「EVO:RAIL」、VCE「VxRACK」、EMC「VSPEX BLUE」、
ヒューレット・パッカード「HP ConvergedSystem」などの各社が参入し、市場が広がっています。
代表的なハイパーコンバージドインフラストラクチャベンダーである米Nutanix社の製品

図2 代表的なハイパーコンバージドインフラストラクチャベンダーである米Nutanix社の製品

ソフトウェアでスケールアウトストレージを実現

ネットワークでつながったサーバー群からなるクラスタを、ハイパーコンバージドインフラストラクチャという
1つのシステムとして成立させているのが、それぞれのサーバーに内蔵されたSoftware-Defined Storageの機能です。
Nutanixを例に、その仕組みをざっくりと見てみましょう。

それぞれのサーバーでは仮想化のために仮想化ハイパーバイザーが稼働しますが、
それに加えてストレージコントローラソフトウェアがすべてのサーバーで稼働します。
このストレージコントローラは、ローカルストレージに書き込むデータを同時にネットワーク経由でほかの複数のサーバーのストレージにも書き込みます。ほかのサーバーのストレージにはNFS経由でアクセスできるようになっています。
万が一、ローカルストレージにエラーが発生して読み取れなくなった場合や、仮想マシンがほかの物理サーバーへ移動した場合には、他のサーバーのローカルストレージにコピーされたデータを読み取ったり、あるいは他のサーバーのローカルストレージから元のデータが再構成されて、
そのデータを必要とするサーバーのローカルストレージに書き込まれます。
そして何事もなかったように、仮想マシンからアクセスされるわけです。
もちろん実際の仕組みはもっと複雑で、最新版ではイレイジャーコードと呼ばれる高度なデータ冗長化の仕組みも備えるようになっていますが、ハイパーコンバージドインフラストラクチャが共有ストレージアレイを使わず、どのように信頼性やスケーラビリティを実現しているのか、おわかりいただけたと思います。
ちなみに、VMwareのEVO:RAILではSoftware-Defined Storageの機能としてVMware Virtual SANを、
EMCのVxRackではVirtual SANもしくはEMCのScaleIOを採用するなど、
各社ともにローカルストレージをスケールアウトストレージ化する仕組みをそれぞれ備えています。

仮想化ハイパーバイザーに加えて、ストレージコントローラソフトウェアも稼働、ローカルストレージに書き込むデータを同時にネットワーク経由でほかの複数のサーバーのストレージにも書き込む

図3 仮想化ハイパーバイザーに加えて、ストレージコントローラソフトウェアも稼働、ローカルストレージに書き込むデータを同時にネットワーク経由でほかの複数のサーバーのストレージにも書き込む

ハイパーコンバージドインフラストラクチャの利点

ここまでハイパーコンバージドインフラストラクチャの形式と仕組みを見てきました。一般的な形態のサーバーをネットワークでつなげてクラスタ化し、ソフトウェアで機能を実現するというそのシンプルさは、いくつかの利点につながっています。
1つは、スモールスタートがしやすいという点です。最小構成となる物理的なハードウェアがシンプルで小型化も容易であるため、ラックの空きスペースから始められ、複雑なストレージ設定も不要なため、すぐに使い始められます。また登場当初のハイパーコンバージドインフラストラクチャはそれほど安くないというイメージがありましたが、現在では価格的にもこなれてきているようです。
ストレージも含めたハードウェアの入れ替えやアップデートも容易です。
より高性能なストレージやサーバーなどのハードウェアが登場した場合、それをクラスタに追加すれば複雑な設定をほとんどせずに使い始められます。
そして最大の利点は、スケールアウトストレージを生かし、サーバーを追加していくだけで、どんどん処理能力や処理容量を増やしていける点でしょう。
高速なプロセッサを積んだサーバーや、大容量ストレージを積んだサーバーなどを追加していけば、クラスタの処理能力やストレージの容量などをあとから向上させることができます。
こうした利点は、特に大規模なデスクトップ仮想化(VDI)などで生かされます。また頻繁に起動終了や規模の変更などが発生する開発環境などにも向いているでしょう。
最近では一般的な仮想化インフラとして、業務アプリケーションのインフラとして使われる事例も増えているようです。
一方で、一般にコンバージドインフラストラクチャではネットワークスイッチまで統合されていますが、
ハイパーコンバージドインフラストラクチャではネットワークスイッチを含んでおらず、別に構成と運用を行わなければならない点、あるいは従来の仮想化インフラとは仕組みが異なるため、アプリケーション性能や効率面であらかじめ検証が必要な場面があるといった点などが、注意点として考えられます。
仮想化インフラの主流をハイパーコンバージドインフラストラクチャが奪えるのかどうかはまだわかりません。しかし専用ハードウェアの機能を汎用的なハードウェアとソフトウェアで置き換えるという
“Software-Defined”の方向性に合致していること、そして新興ベンダーのNutanixだけでなく、VMwareやEMC、ヒューレット・パッカードなどの大手ベンダーが参入していることなどから、仮想化インフラの選択肢として明確な地位を得るのは確実だと考えられます。

 

※このコラムは不定期連載です。
※会社名および商標名は、それぞれの会社の商標あるいは登録商標です。

新野淳一

新野淳一Junichi Niino

ブログメディア「Publickey」( http://www.publickey1.jp/ )運営者。IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。新しいオンラインメディアの可能性を追求。