サーバークラウドストレージ

(連載)令和時代のサーバー入門
第6回 クラウド利用(その1)

「令和時代のサーバー入門」シリーズではサーバーの基礎から仮想化、クラウドとったサーバーに関わる各テクノロジについて触れていきます。
第6回の本記事ではクラウドについて、サービス分類や特徴について解説します。

はじめに

2010年代の特に後半からでしょうか、「クラウド」という言葉を耳にする機会が多くなりましたが、「クラウド」とは何かを明確に答えられる人は限られるのではないでしょうか。
第6回の本記事では、「クラウド」をテーマに解説していきたいと思います。

 連載記事一覧:
  第1回 サーバー基本の「き」
  第2回 ストレージ基本の「き」
  第3回 アプライアンス
  第4回 サーバーの仮想化(その1)
  第5回 サーバーの仮想化(その2)
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  第7回 クラウド利用(その2)

クラウドとは

クラウドとは、「サーバーやストレージといった物理機器をユーザー側で所有せずにサービスを利用する」といった考え方のことです。クラウドコンピューティングと呼ばれることもあります。
クラウドの登場により「所有から利用へ」という新しい考え方が広く認識されました。

前回までの記事にありました通り、従来、必要なサービスを利用するためには物理的なサーバーが必要でサーバー筐体をユーザー側で購入・所有・構築することが一般的でした。
しかし、クラウドの登場により、筐体を所有しなくとも利用できるサービスが数多く生まれています。
サービス提供するものがサーバーですから、クラウドはサーバーの新形態と呼んでもいいかと思います。

なぜ「クラウド=雲」という言葉を使ったのか、諸説あるようですが、昔からネットワーク図を表現するときに雲を使っていて、雲(ネットワーク)の向こう側から提供されるサービスを使っているから、という説が有力です。

クラウドサービスの種類

クラウドサービスは、ユーザー視点でSaaS・PaaS・IaaSの3つの分類に分かれます。
サービス利用の範囲による比較は次のようになります。
尚、クラウドに対してすべてを自社で運用する従来の形態をオンプレミスと呼びます。

・SaaS

SaaSとはSoftware as a Service の略で、クラウド上のアプリケーションを提供するサービスです。
例として、一般向け(B to C)のSaaSとしてGmailなどのメールサービス、Amazon Primeなどの動画配信サービス等が挙げられます。企業向け(B to B)では、Microsoft 365等のオフィス系アプリケーションや会計、カスタマーサポート向けといった各種のSaaSが展開されています。

・PaaS

PaaSとはPlatform as a Service の略で、アプリケーションを稼働させるためのプラットフォームを提供するサービスです。具体的にはソフトウェアの開発環境(プログラムの実行環境やDBが準備された環境)を提供します。IaaSとは異なり、OS環境の準備・管理は不要で開発に集中することができます。例としては、Google App EngineやMicrosoft AzureのApp Service、AWSのLambdaなどです。

・IaaS

IaaSとはInfrastructure as a Serviceの略で、クラウド上にOSを含めたサーバーを稼働させるためのインフラ(CPU、メモリ、ディスクリソース)を提供するサービスです。ユーザーは提供されたリソースに必要なサーバーをOSから構築していくイメージになります。
IaaSのメリットとして、ユーザーがコントロールできる範囲が広く自由度が高いことが挙げられます。一方、ユーザー側が責任を持つ範囲が広いため、SaaSやPaaSに比べて運用や保守に要する負荷が大きくなります。
例としては、Amazon EC2やGoogle Compute Engineなどが該当します。

プライベートクラウドとパブリッククラウド

クラウドサービスの種類としてはSaaS・PaaS・IaaSの3つの分類となりますが、クラウドの環境をどのように構築しているかといった視点では、プライベートクラウドとパブリッククラウドの2つに分類されます。

・プライベートクラウド

プライベートクラウドとは、「企業専用のクラウド環境」のことです。企業がクラウドサービスを提供するシステムを構築し、グループ企業内といった限定した範囲でサービスの提供・利用をする形態となります。
パブリッククラウドと比較してカスタマイズ性が高く、業務内容に合わせたシステムの構築やセキュリティ対策を構成できる点が特徴になります。
一方で、サービス基盤の導入・運用は企業側が行う形となるためその手間は発生します。

尚、上記のように企業が自社内でサービス基盤を構築する形態ではなく、クラウドサービス事業者が保有している機器や環境を利用して企業専用のクラウド環境を構築する形態もあります。前者をオンプレミス型のプライベートクラウド、後者をホスティング型のプライベートクラウドと区別されます。

・パブリッククラウド

パブリッククラウドとは、広く一般のユーザーを対象としたクラウド環境で、クラウドリソースを他のユーザーと共有して利用する形態になります。プライベートクラウドと比較して、既に準備された環境を利用するため、導入の負担が少なく、時間をかけずに利用開始できます。また、サービス基盤の運用の手間もかかりません。
一方で、クラウドサービス事業者が提供するサービスの範囲内でしかカスタマイズが効かないため、構成の自由度が制限されます。
パブリッククラウドサービスの例としては、Amazon Web Service(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platformなどが挙げられます。

クラウド利用のメリット

オンプレミス環境とクラウドを利用した場合とで比較してみたいと思います。

項目

オンプレミス

クラウド

導入

  • 機器調達に時間がかかる
  • スペース、電源などの設備が必要
  • 初期費用がかかる
  • 機器調達が不要なため時間がかからない
  • 自社内での設備が不要
  • 従量課金となるため初期費用は抑えられる

運用・管理

  • 機器を所有するため資産管理が必要(固定資産税がかかる)
  • 機器の監視が必要
  • 従量課金ではないためランニングコストが掛からず、使い過ぎを気にする必要がない
  • 基盤のバージョン更新などの運用が必要
  • システムにあった運用管理の設計が可能
  • 機器を所有しないため、資産管理が不要
  • 機器の監視も不要
  • 従量課金となるため使い過ぎに気を遣う必要がある
  • 基盤のバージョン管理は不要

障害対応

  • ディスク交換の立会など機器故障時の対応が必要
  • 切り分け等の専門知識が必要
  • 自社で対応をある程度コントロールできる
  • 機器の故障対応(立会や切り分け等)は不要
  • クラウド事業者に障害対応を任せる形となるため、復旧連絡待ちとなる。

自由度

  • 用途、目的に合ったシステムを設計し、構築することができる
  • クラウドサービスの範囲内でしかカスタマイズが効かない

セキュリティ

  • 自社内の基盤上(社内)にデータを持ち、
    セキュリティ設計の自由度が高い
  • ローカルネットワークでの利用
  • クラウド事業者の提供するセキュリティへの依存度が高い
  • インターネットを介したアクセス

クラウドを利用する場合、機器を所有することがないため初期費用や運用管理面でメリットがあります。オンプレミスの場合は、導入や運用管理に手間はかかるものの自社で設計を含めたコントロールが効くため、自由度が高いというメリットがあります。

現状はクラウド利用が増加している傾向にありますが、必ずしもクラウドが優れているということではありません。クラウドに移行した後にオンプレミスに戻る「オンプレミス回帰」という言葉も耳にするようになりました。それぞれの特徴を把握することが大事なポイントになります。

サーバー仮想化技術とクラウドサービス

SaaS、PaaS、IaaSの分類の図で「仮想化ソフトウェア」を記載していますが、クラウドサービス(特にIaaS)を提供する基盤は、主に仮想化技術をベースに作られています。

使いたいときに使いたい分だけ使うことが出来るというクラウドサービスは、仮想マシンを指定リソースで即時作成できる仮想化技術があってこそです。

仮想化からクラウド時代へと変化していく中で、既存のテクノロジーが次世代のテクノロジーの下支えとなっていることを実感します。と同時に、サービスを提供するための仕組みの複雑性が増しているとも感じます。サーバーの基本から仮想化、クラウドといった体系的な理解が重要と再認識しています。

まとめ

今回はクラウドについて、サービス分類や特徴について解説しました。

本記事のポイント

  • クラウドとは物理機器を利用者側で所有せずにサービスを利用する考え方である
  • クラウドサービスは提供範囲によりSaaS、PaaS、IaaSの3つに分類される
  • 機器を所有しないことで、導入時の初期費用や運用管理面でのメリットがある

引き続き、次回の記事も見て頂けますと幸いです。

次回案内

次回は、引き続き「クラウド」について、現在の状況やクラウドへの移行についてご紹介します。
ここまで読んでいただきありがとうございました。

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