教育・研究機関
研究施設「ナノテラス」の大規模ネットワーク環境を構築
Fabric Connect技術の採用でマルチテナント運用を簡素化
お客様の課題
TEDのソリューション
導入製品
導入ソリューション
国立研究開発法人
量子科学技術研究開発機構
NanoTerasuセンター
ビームライングループ
上席技術員
中谷 健 氏
国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST)と一般財団法人 光科学イノベーションセンター(PhoSIC)などは、2024年4月に稼働を開始した世界最高レベルの放射光施設「3GeV高輝度放射光施設(愛称:ナノテラス)」のネットワーク環境を、Extreme Networksの製品群で構築しました。複数の団体や民間企業の共同利用に対応するため、シンプルなネットワーク構成を可能とする仮想化技術「Fabric Connect」を活用し、マルチテナント型の高速なネットワーク環境とIP電話環境を構築しています。
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ナノテラスは放射線作業従事者でなくても実験ができる国内初の放射光研究施設です。ナノレベルで物質を観察でき、その研究成果は幅広い分野の研究開発やものづくりへの活用が期待されています。
ナノテラスは官民地域パートナーシップ(国側:QST、民間・地域側:PhoSICを代表機関とする宮城県、仙台市、東北大学、東北経済連合会)により建設された施設です。運用を開始した4月からは公益財団法人 高輝度光科学研究センター(JASRI)が加わり、QSTのNanoTerasu総括事務局が各組織間の調整を担当しています。
ナノテラスのネットワークには複雑で多岐にわたる要件が求められていました。まず性能面では、実験データの収集や実験装置の維持管理などに用いる基幹ネットワークに24時間365日安定運用できる可用性と、400Gbpsクラスの大容量データを転送・処理できる性能が求められました。
ナノテラスのネットワーク運用を担当するQSTのNanoTerasuセンター ビームライングループ 上席技術員の中谷健氏は、「ナノテラスは限られた組織が使う訳ではないためユーザー数やどれだけの容量が必要になるかを事前に正確に予測することができず、今後を見据え、拡張性の高い設計が必要でした」と明かします。
ナノテラスは、複数の団体・企業各々の用途に合わせたネットワーク環境を用意する必要があります。「1つの施設の中に放射線管理、設備管理、実験用といった各用途のネットワークが存在し、それらは組織ごとに個別に設計しなければなりません。構築後の運用もそれらのネットワークを共存させた上で限られた人数で一体的に行わねばならないため、物理ネットワークに依存する従来型の設計では対応が困難でした」(中谷氏)
そこでナノテラスでは、仮想化技術によって1つの物理ネットワークを論理的に分割するマルチテナント型アーキテクチャによる問題解決を図りました。技術的には、柔軟なネットワークの設定・設計を可能にするShortest Path Bridging(SPB)プロトコルに注目。中谷氏も「利用者のネットワークが相互に干渉せず、自由度が高いネットワークを構築でき、ナノテラスの複雑な要件への対応が可能と判断しました」と説明します。
最終的にナノテラスでは、東京エレクトロンデバイス(TED)が取り扱うExtreme Networksのスイッチ製品が採用されました。標準技術であるSPBを採用したExtreme NetworksのFabric Connectは、シンプルなネットワークを構成でき、手動でVLANの設定を行わずとも複数のネットワークを分離し、遮断できます。プロビジョニングの際も末端のスイッチの設定変更だけで最適な経路と冗長性を確保し、ネットワークの変更や拡張も容易に行えます。
導入にあたって中谷氏は、「TEDは茨城県東海村の加速器施設である『J-PARC』でも同様のネットワーク構築も経験していましたし、私自身同所でExtreme Networksの製品を使用して堅牢な製品という印象を抱いていたので、心配はしていませんでした」と語ります。
その後ナノテラスのネットワークは2022年6月に無事稼働を迎えました。構築したネットワークは基幹部分に200Gbpsの光ケーブルが2系統敷設されています。また、将来的に追加のリソースが必要となっても接続するスイッチをアップグレードすることでスケールアップできる形となっています。
「コロナ禍で多数の団体や参加組織に要件のヒアリングを行い、なかなか物事が進まない状況下でしたが、Fabric Connectを採用したことで、それぞれの要求に対応でき、かつシンプルな構成で将来的な拡張も見据えたネットワークを構築できました」と中谷氏は語ります。
運用に際しては、オンプレミス管理ツールの「ExtremeCloud IQ – Site Engine」でモニタリングを行っています。ExtremeCloud IQ – Site Engineの操作感について中谷氏は、「ネットワーク全体を俯瞰して見ることができる点は便利だと感じています。特に、冗長化したネットワークの両方の経路の状態を同時に把握できるメリットは大きいと思います」と評価します。
また今回のネットワーク整備に伴い、内線電話環境もクラウドPBXを採用してIP電話環境を構築しました。内線電話利用にかかるコストを削減するほか、センターの担当者2名で電話を含めたネットワーク運用管理を行えているといいます。
「竣工以来ネットワークは安定しています。稼働開始から2年になりますが、大きなトラブルもなくネットワークを維持できているのは凄いことです。運用担当2人で対応できているのはExtreme製品の性能や事前の設計が良かったからだと思います」(中谷氏)
ナノテラスでは、Fabric Connectによる仮想化でネットワークや機器の数を減らし、設計工数も含めた導入時と運用時のトータルコストの抑制に成功しました。「もちろん、まだ製品の機能を十分に活用できていない部分もあるので、TEDとExtreme Networksには教育プログラムや資料を充実させてもらえると嬉しいですね」と、中谷氏は今後も両社に期待を寄せています。
国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 NanoTerasuセンター
千葉県千葉市稲毛区穴川4丁目9番1号
2016年4月
小安 重夫
高輝度な軟X線(放射光)を用いて、物質の機能に影響を与える電子状態の可視化を実現する最先端の放射光施設です。研究対象領域として、自動車・タイヤ・産業用機械・電子機器・電子部品・化学・非金属・金属・エネルギー・製薬・化粧品・ヘルスケア・農業・食品など、学術研究から産業利用までの幅広い利用が見込まれ、そこでの研究成果は地域産業の発展や、日本の競争力の強化に大きく貢献することが期待されています。
記事は 2024年07月 取材・掲載のものです。
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