今年はついにAWSやGoogle、VMwareが本格展開 ―― 主要クラウドベンダーの「ハイブリッドクラウド戦略」とは?
AWSのハイブリッドクラウド製品「AWS Outposts」が年内の登場予定となり、これで主要クラウドベンダーのハイブリッドクラウドが勢揃いすることになる。各社はどのような戦略を展開しようとしているのか。各社の動きを見ていこう。
ついにAWSがハイブリッドクラウドへ進出
2019年は、AWS、マイクロソフト、Google、VMwareといった主要クラウドベンダーのハイブリッドクラウド製品が出揃う年となります。とくにクラウド業界をリードしてきたAWSは、これまで「パブリッククラウドこそクラウドのすべて」というスタンスでクラウドを強化してきており、オンプレミスとパブリッククラウドを接続して相互運用性を高める、いわゆるハイブリッドクラウドの機能やソリューションについては注力してきませんでした。
そのAWSが、2018年11月に米国ラスベガスで開催したイベント「AWS re:Invent 2018」で発表したのが、オンプレミスでAWSのクラウド環境を実現する「AWS Outposts」です。AWS Outpostsはいわば、AWSのデータセンターの一部を切り取って企業のデータセンターへ持ちこみ、社内ネットワークに直結するものと言えます。
またAWS Outpostsは、AWSが開発した専用のクラウド基盤ソフトウェアが組み込まれたサーバーやスイッチを搭載したアプライアンス製品として顧客に提供されます。そして、これまでのAWSのクラウドと同じようにAWSがリモートで管理運用し、顧客はこれまでと同じようにAWSのコンソールからAWS Outpostsを1つのリージョンとして扱えるのです。
そして2019年6月、AWSはAWS Outpostsの具体的な姿を初めて明らかにしました。AWS Outpostsは通常のデータセンターで使われている19インチラックよりも幅広の24インチラックに独自の電源を搭載し、100ギガビット・イーサネットに対応します。発売は2019年中の予定です。
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YouTubeで公開された「AWS Outposts」のラック。幅広の24インチラックで、独自の電源を搭載して100ギガビット・イーサネットに対応
Googleも「GKE On-Prem」を投入
AWSがAWS Outpostsを発表するわずか4カ月前、GoogleもGoogle Cloudと連携するハイブリッドクラウドのソリューションとして「Google Kubernetes Engine on-Prem」(GKE on-Prem)を発表しています。
GKE on-Premは「Google Kubernetes Engineの体験をそのままオンプレミスで実現するもの」と説明されており、Dockerコンテナ化したアプリケーションであれば、Google Cloudのデータセンターとオンプレミスの間でシームレスな相互運用性を実現します。
GKE on-PremもAWS Outposts同様、ハードとソフトが一体化したアプライアンスとして提供されます。ただし、すべてをGoogleが用意するわけではなく、VMware 5.6とF5 BIG-IPなどのソフトウェアを基盤とし、ハードウェアについてもシスコやDell EMC、HPE、レノボなどのパートナーが提供するシステムソリューションとなっています。
そして2019年4月、GoogleはGKE on-Premをベースに「Anthos」と呼ばれるハイブリッドクラウドソリューション、さらに対応クラウドをAWSなどにまで広げたマルチクラウドソリューションの展開を発表するなど、ハイブリッドクラウド/マルチクラウドの戦略を本格化させています。
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AWSがAWS Outpostsを発表するわずか4カ月前の2018年7月、Googleはハイブリッドクラウドソリューション「GKE on-Prem」を発表した
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VMwareは「VMware Cloud on Dell EMC」を投入
AWSやGoogleと同様、アプライアンス型のハイブリッドクラウドソリューションを発表したのがVMwareとDell EMCです。2019年4月に米国ラスベガスで開催された「Dell Technologies World 2019」で、Dell EMCは「VMware Cloud on Dell EMC」を発表したのです。
これはVMwareが「VMware Cloud on AWS」などで展開しているVMware Cloudのオンプレミス版です。VMware Cloud on AWSに限らず、さまざまなクラウドで展開されているVMware Cloudとのハイブリッドクラウド構成が可能となります。
Dell EMCのハイパーコンバージドシステムである「VxRail」をハードウェア基盤とし、そのうえにVMwareのクラウド基盤ソフトウェアを組み込んで、すぐに使えるようにしています。さらにソフトウェアのパッチ適用やアップグレード、ハードウェアのアップグレードやファームウェア管理といった運用管理は、すべてマネージドサービスとしてVMwareが行います。
なお、前述のAWS OutpostsでもVMware Cloud on AWS対応モデルが登場するため、VMwareは複数の選択肢が用意されることになります。
マイクロソフトはすでに「Azure Stack」を投入
こうしたAWSやGoogle、VMware/Dell EMCの“ハイブリッドクラウド本格参入”を迎え撃つのが、マイクロソフト「Azure Stack」です。
Azure StackはMicrosoft AzureのIaaSとPaaSの機能、ネットワークコントローラーやストレージコントローラー、ロードバランスなどのサービス群を、そのままオンプレミスで利用可能にする製品です。これにより、オンプレミスとクラウドにおけるアプリケーションの高度な相互運用性と、その実現によるハイブリッドクラウド環境を提供します。
Azure StackはシスコやDell EMC、EMC、Lenovo、富士通といったマイクロソフト・パートナーを通じて提供されるアプライアンス製品です。
もともとマイクロソフトはオンプレミスのソフトウェア基盤において、Windowsによる高いシェアを誇っており、ハイブリッドクラウドへも積極的に取り組んできました。Azure Stackは2015年5月に行われた「Microsoft Ignite 2015」で発表され、2017年7月には正式出荷が開始されるなど、すでに2年もの実績を持ちます。
ちなみに、オラクルもOracle Cloudをオンプレミスに持ち込めるアプライアンス「Oracle Cloud@Customer」を提供しています。
パブリッククラウドの体験をハイブリッドクラウドでも
これまでクラウドベンダーは、自社のパブリッククラウドの機能強化によって他社との差別化を図ってきました。しかし各社の機能強化が進んできた結果、どのクラウドを選んでも十分な機能と能力を備えるようになり、徐々に機能面や価格面での差別化が難しくなってきていると言えます。
主要各社が相次いでハイブリッドクラウドのソリューションに注力し始めているのは、こうした状況を踏まえて、その競合の場をパブリッククラウドからオンプレミスやマルチクラウドへ広げようとしているためです。
そしてクラウドベンダーが展開する製品であれば、ハイブリッドクラウド製品にもパブリッククラウドの特長であり強みである容易なプロビジョニング、スケーラビリティ、従量課金などの要素と、顧客にとって運用の手間が不要なマネージドサービスを組み合わせるのは当然のことと言えます。しかも、これらを実現しようとすると、ここで紹介したように各社があらかじめハードとソフトが一体化したアプライアンス製品としてハイブリッドクラウドを展開することも、当然の帰結かもしれません。
ただし、その中でもハードウェアベンダーやシステムインテグレーターなどのパートナーとは組まず、自社でハードからソフトまですべてを一体として設計・開発し、顧客に提供するAWSのポジションは際立ちます。
果たしてAWSは、ハイブリッドクラウド市場でも他社を大きくリードする存在となれるのでしょうか?
※本記事は東京エレクトロンデバイスが提供する不定期連載のタイアップコラムです。
※会社名および商標名は、それぞれの会社の商標あるいは登録商標です。
※このコラムは不定期連載です。
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新野淳一/Junichi Niino
ブログメディア「Publickey」( http://www.publickey1.jp/ )運営者。IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。新しいオンラインメディアの可能性を追求。