大手ベンダーも本気を見せ始めた「ノーコード/ローコード開発ツール」は定着するのか?
“プログラミングなし”もしくは“少しのプログラミングだけ”で、アプリケーションが開発できるノーコード/ローコード開発ツールの市場に、マイクロソフトやGoogle、Appleといった大手ベンダー企業が本気を見せ始めている。
企業のソフトウェアニーズの高まりが生んだ“ノーコード/ローコード”
プログラミング言語によるコーディングが不要、もしくは少なくて済み、迅速にアプリケーション開発が可能になる「ノーコード/ローコード開発ツール」に対する注目が高まってきています。
“ノーコード/ローコード”という用語は2018年頃から広まり始めましたが、どのようなツールが該当するのか、とくに定義があるわけではありません。そのため、このノーコード/ローコードという言葉が登場する以前、古くは1990年代に流行した効率的な開発のための「4GL(第四世代言語)」と呼ばれるさまざまなプログラミング言語や、Microsoft AccessのようなGUIのみでシステム開発が可能なデータベースツール、仕様書から自動的にコードを生成するコードジェネレーターなど、プログラマー向け/非プログラマー向けを問わず、さまざまなツールがこの分野に該当するとされています。
こうしたツールが登場してきた背景には、企業が常に多様なアプリケーションに対するニーズを持つ一方で、現状では開発スピードもアプリケーションの種類も、そうした要望に追いつけていないという状況があります。
すでに2009年には大手調査会社ガートナーが「2014年までに新規ビジネスアプリケーションの少なくとも4分の1は非職業プログラマーである“シチズン・デベロッパー”によって開発されるだろう」という予測を出していました。業務に必要なアプリケーションをビジネスの現場にいるスタッフ自身が開発することにより、迅速かつ柔軟に最適なアプリケーション環境を実現することになるという予測でした。
このように企業や現場が必要とするアプリケーションを現場担当者自身が手軽につくれるツールに対する期待はずっと続いているどころか、多くのビジネスが以前にも増してソフトウェア依存を高めているなかで、ソフトウェアに対するニーズそのものがさらに増大していると言えます。
Google、マイクロソフト、アップルが相次いで製品強化
そのノーコード/ローコード開発ツールに対して、ここ数年で大手ベンダーが目立った動きを見せるようになりました。
Google社は2018年にG Suiteをベースとするノーコード/ローコード開発ツールの「App Maker」をリリースしました。しかしApp Makerはあまりユーザーに活用されなかったことから、2020年1月にはサードパーティと してノーコードツールを提供していたAppSheet社を買収。次いでApp Makerの提供終了を発表し、G Suiteベースのノーコード開発ツールとして「AppSheet」を標準にする考えを明確にしました。
つまり、Google社は自社ツールを終了し、サードパーティーを買収してまで、G Suiteのノーコード/ローコード開発ツールを強化し続けるという姿勢を明らかにしたわけです。
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Appleの子会社であるFileMaker(旧Claris)社は、その主力製品であるデータベース「FileMaker」がノーコード/ローコード開発ツールとして以前から人気を集める製品でしたが、2019年に社名をClarisからFileMakerに変更すると同時に、FileMakerとDropbox、Slack、Salesforceなどのさまざまなクラウドサービスを接続できるサービスを提供するためにStamply社を買収し、「Claris Connect」としました。
FileMaker社はFileMakerのクラウド版の提供などと合わせて、今後さらにノーコード/ローコード開発ツールベンダーとしての位置づけを強化しようとしています。
一方、マイクロソフト社は2016年にGitHub、Dropbox、Slack、メール、Twillio、Googleカレンダーなどインターネット上のさまざまなサービスを連携することで、独自のアプリケーションを構築できるツール「Microsoft Flow」を公開。2019年にはこれを「Power Automate」として名称変更と機能強化を図り、さらに2020年6月にはRPA(Robot Process Automation)ツールベンダーのSoftmotive社の買収とPower Automateへの統合を発表しました。
これによりPower Automateはノーコード/ローコード開発ツールとして、さまざまなサービスの連携と操作の自動化などを備えるツールとなりました。
そして、ちょうどこの記事の締め切り直前、AWSが表計算をベースにしたノーコード/ローコード開発ツール「Amazon Honeycode」を発表し、この市場に参入してきました。ノーコード/ローコード開発ツール市場にとって非常に大きなニュースです。
これ以外にも、ノーコード/ローコード開発ツールとしては人間の操作をコンピュータが真似ることでシステムの自動化を実現する「RPA」、クラウドサービスの統合と連携のためのプラットフォームとなる「iPaaS」などの分野でも、大手ベンダーからスタートアップまで多くの企業が参入し、多様な製品が登場しています。
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クラウドが強化するノーコード/ローコード開発
いまノーコード/ローコード開発ツール市場が盛り上がっている背景として、やはりクラウドの登場が大きな役割を果たしています。
かつてのノーコード/ローコードツールは、ツールによってアプリケーションが生成されたとしても、それをサーバーへデプロイするのに、結局はITエンジニアの手を借りる必要があり、気軽に何度も開発することが実質的にはなかなか難しい、あるいはPC上でアプリケーションが生成されても使えるのは自分だけで、部門や社内で共有することが難しいなど、ノーコード/ローコード開発ツールの利用が広がらないといった課題がありました。
しかし今は 、クラウド上でノーコード/ローコード開発ツールが提供されることで、生成されたアプリケーションをクラウド上ですぐに試せ、何度でも試行錯誤ができ、すぐにほかの利用者と共有することも容易です。
ほかのユーザーが作ったアプリケーションを共有しつつ、自分用にカスタマイズするといったことも容易になったおかげで、開発に着手するハードルが圧倒的に下がるといったことも期待されます。
Google社のAppSheetには機械学習機能が内蔵されており、開発者がつくろうとしているアプリケーション分野を認識してプロトタイプを生成し、その分野のアプリケーションならこの機能があったほうがよくないですか?といった提案までしてくれるなど、クラウドが持つ豊富な機能が活用されています。
さらにクラウド上で、さまざまなサードパーティ のサービス、例えばメール配信やファイル共有サービス、顧客管理サービス、マーケティング支援サービス、ソーシャルメディアサービスなどの豊富なサービスが提供され、APIを通じて連携可能になったことも、ノーコード/ローコード開発ツールの発展に寄与しています。
これらのおかげで、ノーコード/ローコード開発ツール自身ですべての機能をつくり込まなくても、足りない部分は外部のサービスを呼び出すことで実現できるようになったのです。
果たしてノーコード/ローコード開発ツールは定着するか?
ノーコード/ローコード開発ツール分野は、過去にも何度か小さな盛り上がりを見せてきましたが、生成されたアプリケーションの保守が難しい、かゆいところに手が届かないなどの課題も指摘され、市場として十分に定着してきたとは言えません。
今回のブームによって、こうした見方は変わるのでしょうか? これまでと異なるのは、前述のようにクラウドの登場によって、以前よりも簡単に試行錯誤や再利用が容易になったこと、APIの連係によるエコシステムが非常に豊富な点など、成功と定着に有利な点は揃ってきました。大手ベンダーが相次いで本格的に注力してきているのも、こうした環境の変化を察したからではないでしょうか。
実際にRPAのように、これまでにない普及と成功事例を積み重ねている分野もありますし、ノーコード/ローコード開発ツールは主にクラウドサービスの一部として、一定の存在感を持ち続けることになると予想しています。
※本記事は東京エレクトロンデバイスが提供する不定期連載のタイアップコラムです。
※会社名および商標名は、それぞれの会社の商標あるいは登録商標です。
※このコラムは不定期連載です。
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新野淳一/Junichi Niino
ブログメディア「Publickey」( http://www.publickey1.jp/ )運営者。IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。新しいオンラインメディアの可能性を追求。