(連載)令和時代のサーバー入門
第7回 クラウド利用(その2)
「令和時代のサーバー入門」シリーズではサーバーの基礎から仮想化、クラウドとったサーバーに関わる各テクノロジについて触れていきます。
第7回(最終回)の本記事ではクラウドについて、その現状やクラウドへの移行について解説します。
はじめに
最終回となる第7回では、前回の記事に続き「クラウド」をテーマに、現状とクラウド移行について解説していきたいと思います。
連載記事一覧:
第1回 サーバー基本の「き」
第2回 ストレージ基本の「き」
第3回 アプライアンス
第4回 サーバーの仮想化(その1)
第5回 サーバーの仮想化(その2)
第6回 クラウド利用(その1)
第7回 クラウド利用(その2) ←本記事
クラウド利用の現状
いまや様々なWebサイトでクラウド利用率について言及されていますが、軒並みクラウド利用率は増加しており、クラウドサービス市場動向としても年々規模が拡大している、という内容になっています。
実際のビジネスシーンの私の実感としても、既にクラウドを利用している企業は多い印象です。少なくともシステム導入、更改の際にはオンプレミスと同じ土台でクラウド利用の検討をする時代になってきていると感じています。
2005~2015年頃、仮想化技術の普及により企業内で乱立していた物理サーバーが集約されました。その後、2024年現在に至るまでクラウドの普及により複数企業が共有する環境への集約化が進んでいます。
全体として、物理的なリソース効率・人的なリソース効率のよい形へと姿を変えいる、と考えるとクラウド利用の普及は自然な流れとも取れます。
一方で、クラウド利用に移行したあとにオンプレミスに戻る「オンプレミス回帰」という言葉も耳にするようになりました。従量課金により想定以上にコストが発生した、トラブル対応をコントロールしたいなど、オンプレミスの方が適しているシステムについてはオンプレミスに戻すという動きも出てきています。
クラウドに適したシステムはクラウドへ移行され、オンプレミスに適したシステムはオンプレミスで運用する、といった使い分けが主流になっていくという見方もできます。
代表的なクラウド
現在、多くパブリッククラウドが普及していますが、代表的なものとして2つご紹介します。
・Amazon Web Service(AWS)
AWSは通販や動画配信で有名なAmazon社が提供しているクラウドサービスです。
IaaSとしてEC2(Amazon Elastic Compute Cloud)、オンラインストレージサービスとしてS3(Amazon S3)が代表的なサービスになります。
Amazon社は2000年台からサービスを提供しているクラウドサービス業界におけるパイオニア的な存在であり、現在に至るまで業界の多くのシェアを誇るリーダー的な存在であり続けています。提供するサービスは数百種類と存在しています。
尚、サービス提供用の仮想化基盤は主にKVMベースで動作しているといわれています。
・Microsoft Azure
AzureはWindows OSやOffice製品で有名なMicrosoft社が提供するクラウドサービスです。
2010年にサービスを開始してから、AWSと並んで業界の多くのシェアを誇るサービスとなりました。
IaaSやPaaSを中心に多くのサービスを提供しています。
Office製品など、さまざまなMicrosoft社製品との親和性が高いことが特徴として挙げられます。
サービス提供用の仮想化基盤は当然ながらMicrosoft社のHyper-Vが採用されています。
クラウド × VMware
2013年当時のVMware社(現Broadcom社)は、vCloud AirというvSphereベースのパブリッククラウドサービス(IaaS)を開始しましたが、2017年頃からAWSといった大手クラウド事業者と連携する方向に舵を切っています。具体的には、Amazon社やMicrosoft社といったクラウド事業者の持つクラウド環境(物理リソース)を利用して、AWSやAzure上にVMware環境を構成するというものです。
筆者の私見ですが、オンプレミスとクラウドを使い分けて使用する、いわゆる「ハイブリッドクラウド」に重きを置いた戦略を取っているように思えます。
現在、次のサービスが展開されており、通称「VMware Cloud」と呼ばれます。
- VMware Cloud on AWS
- Azure VMware Solution
従来、オンプレミスのVMware環境をパブリッククラウドへ移行する場合、仮想マシンの変換などの作業やパブリッククラウド特有のノウハウ学習が必要でしたが、上記のサービスを利用すると、オンプレミスのVMware環境の使用感はそのまま、ノウハウもクラウド環境でも活用することができます。つまり、クラウド移行の手間と時間を最小限にすることができます。
また、国産のクラウドサービスに目を向けるとVMwareをベースとした基盤でサービス提供している業者も少なくありません。クラウドでもVMwareを使いたい場合は、国産のクラウドサービス利用も1つの選択肢となるかと思います。
クラウド × サーバーベンダー
クラウドには様々なメリットがありますが、一方でオンプレミスに残しておきたいシステムも存在します。前述したように、こうしたハイブリッドクラウド環境が増えていく中で、クラウドのメリットをオンプレミスでも享受できるような新しいサービスを各サーバー・ストレージベンダーが提供しています。
具体的には、機器はオンプレミスに設置しつつも、
- 機器を所有しない(サーバー・ストレージベンダー側の所有)
- 初期コストを抑えられる(従量課金、使った分だけ支払い)
といったクラウド利用時のメリットを内包したサービスです。
オンプレミスのサーバー・ストレージを従量課金型の「サービス」として利用する形態になります。
例を挙げると次のサービスが該当します。
- Pure Storage社 Evergreen//One
- Dell Technologies社 APEX
ハイブリッドクラウドの環境を見据えて、また、クラウドの登場により「所有から利用へ」と意識が変わっていく中で、各サーバー・ストレージベンダーが上記サービス提供で追随してきている状況です。
クラウドへの移行
最後に、既存のオンプレミスの環境をクラウドへ移行する場合のアプローチについて考えてみます。
・SaaSの利用
第一の選択肢としてクラウド事業者が提供しているSaaSの利用に切り替えるというアプローチがあります。現在、メール/オフィス系アプリケーション/チャットツール/Web会議/勤怠管理など様々なSaaSが提供されています。必要な機能がSaaSに備わっていれば、該当のSaaSへ切り替えることがクラウド移行の一番の近道といえます。
SaaSへの切替により、オンプレミスでのシステム構築・運用管理から解放されます。
一方、操作感が既存システムとSaaSで大きく異なる場合は、学習コストが掛かります。
・クラウドリフト
第二の選択肢として、「クラウドリフト」が挙げられます。
クラウドリフトとは、オンプレミスのシステムをそのままクラウド基盤に移すことを言い、オンプレミスの仮想マシンをそのままIaaS上に移行するイメージになります。
クラウドリフトはシステムの新規構築や改修を行わずに(要は時間と費用をかけずに)クラウドへ移行するアプローチです。基本的にIaaSの利用となるためSaaS利用とは異なり、OS、ミドルウェア、アプリケーションの運用管理はそのまま残ります。
クラウド向けにシステムを構築しなおすアプローチ(クラウドシフト)では、多くのコストや時間がかかります。既存のシステム移行を優先するクラウドリフトを行うと、コストを抑制しつつクラウドシフトへの足掛かりにできます。また、ナレッジの蓄積にもなります。
前述の「VMware Cloud」のソリューションを利用すると、クラウドへリフトする際の仮想マシンの変換等の手間がなくなり、リフトが容易に実現できます。また、国内のクラウド事業者では主にVMware基盤でのサービス提供を行っており、リフトを支援するサービス提供もしていますので、国産クラウド利用もリフトが容易に実現できる1つの選択肢になります。
・クラウドシフト
クラウドシフトはクラウド向けに最適化した構成で、クラウド環境へシステムを再構築したり改修を行うアプローチです。例えば、オンプレミスで開発環境(プログラム実行環境+DB)を構成している環境のクラウド移行を検討して、PaaSの利用の方が運用管理等の面でより適しているとなれば、PaaSを利用してシステムをクラウド上に再構築することをクラウドシフトと呼びます。
既存の環境を再構築していくため、導入や開発には一定の期間とコストが掛かります。
そのため、まずはクラウドリフトをして、その後、順次既存システムの再構築や改修を行っていく(シフトしていく)という「リフト&シフト」というアプローチが、企業にとって年度予算枠も決まっている中で、採用しやすい選択肢となっています。
まとめ
今回はクラウド利用について、現状、サーバーベンダーの動向、クラウド移行のアプローチについて解説しました。
本記事のポイント
- 現状、オンプレミス環境のクラウドへの切り替えが進んでいる
- オンプレミスに機器設置/従量課金型のサービスを各サーバー・ストレージベンダーが提供している
- クラウド移行のアプローチとしてはSaaS利用、クラウドリフト、クラウドシフトがある
当社の取り組み
当社では、オンプレミス向けの機器販売だけではなく、クラウド上への環境構築・移行についても承っております。
詳細はこちらをご確認ください! → クラウドインテグレーションサービス
移行後のお客様のクラウド環境に対して当社のエンジニアがインスタンスやリソースの監視を行うサービス提供も行っております。
また、当社では多くのクラウドセキュリティ製品を取り扱っており、セキュアなクラウド環境作りをご支援致します。
クラウドへの環境構築、移行をご検討されておりましたら、ぜひ当社にお手伝いさせてください。
最後に
「令和時代のサーバー入門」シリーズは本記事で最終回になります。
新しいテクノロジーが登場するたびに複雑化していくサービス提供環境(サーバー)について、サーバーの基礎から仮想化、クラウドといったトレンドまでを広く解説させて頂きましたが、少しでも皆さまのお役に立ていたら幸いです。
ご拝読いただきありがとうございました。