金融や電子政府などの活用に期待が高まる“改ざんできず、ダウンしない”ブロックチェーン技術
仮想通貨ビットコインの基幹技術として登場したブロックチェーンが急激に注目を集めています。今後さまざまな用途へ応用できる可能性を秘めたブロックチェーンですが、それを支える基盤には、大量のトランザクションに耐えられるフラッシュストレージが力を発揮します。
仮想通貨ビットコインの基幹技術を応用
ブロックチェーン技術への注目が急激に高まっています。まず、三菱東京UFJ銀行がブロックチェーン技術を利用して独自の仮想通貨を開発中であることが報じられました。海外送金の手数料及びシステム構築コストの低減が狙いのようです。SBIホールディングスはブロックチェーン技術に基づく海外送金システムを提供する米Ripple社に推定17億円を投資。また、デジタルガレージ社は子会社を通じてブロックチェーン技術「サイドチェーン」を開発するカナダBlockstream社に推定10億円を投資します。日本銀行もビットコインなど仮想通貨とブロックチェーン技術についての研究を進めています(参考資料) 。
さらに、第190回国会の衆議院予算委員会では仮想通貨とブロックチェーン技術に関する質問が行われ、麻生太郎財務大臣が「仮想通貨が金融の将来に大きな影響を及ぼすようになることは間違いない」と答弁しました。
こうした出来事は世界的な盛り上がりのごく一部です。ブロックチェーンへの新しい取り組みや挑戦が世界中において猛スピードで行われていて、資金と人材がこの技術をめぐって動いています。ただし、日本国内での取り組みの多くはまだ実証実験です。実際に技術に取り組んで理解してみようではないか、という機運が盛り上がっている段階と言えます。
ブロックチェーンは仮想通貨「ビットコイン」と共に誕生した技術です。当初はビットコインの基幹技術を指す言葉でしたが、今では多種多様なブロックチェーン技術が登場し、百家争鳴と言える状況を呈しています。その定義や範囲もまだ定まってはいません。
これらブロックチェーン技術に対する評価も、専門家の間でまちまちな状況です。実際に取り組んでいる専門家の間でも、ブロックチェーン技術への意見は大きく異なる場合があります。
さまざまなブロックチェーン技術の最大公約数のような要素を取り上げるなら、「誰でも追跡できる透明性を備え、改ざんが事実上不可能であり、ダウンしにくい分散型の台帳を作る技術」がブロックチェーンの本質と言えます。このような性質は、暗号技術を応用したデジタル署名と分散合意形成アルゴリズム(ビットコインの場合は計算競争であるプルーフ・オブ・ワーク)を巧妙に組み合わせることにより実現しています。ブロックと呼ぶ、情報の単位が鎖のようにつながるデータ構造を採るので、ブロックチェーンと呼ばれています。
ブロックチェーンは「中心」がないP2P(ピア・ツー・ピア)ネットワークです。複数のノード(コンピュータ)がそれぞれブロックチェーン全体の情報を保持していて、一つのノードがダウンしてもブロックチェーン全体は機能し続けます。特定のコンピュータを攻撃したり乗っ取ったりしたとしても、全体として正常に動作することが、ブロックチェーンの大きな特長です。
このブロックチェーン技術を応用することで、海外送金のような価値の移転、土地登記などの重要文書の管理や電子政府への応用、個人や企業同士の電子契約による取引コストの抑制など、さまざまな方面での期待が高まっています。
「改ざんできず、ダウンしない分散元帳」の応用研究が進む
こうした「透明性があり、改ざんできず、ダウンしない分散元帳」をビットコインでは仮想通貨のために使ったわけですが、それ以外にどのような使い道があるのでしょうか。
実際に取り組みが始まっている用途として、異なる国の銀行同士を結ぶ送金システムを低コストに構築できるとの期待が高まっています。この2016年1月に世界中の金融機関トップを集めて開催された「ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)」では、ブロックチェーン技術が大きな話題となりました。ドイツ銀行、マスターカードといった世界的な金融機関のトップがブロックチェーン技術に強い関心を持って見守っていることが明らかになったのです。
中心部にある「ブロックチェーン」により、資産価値、貴重品の所有権、不動産、さらには電子投票などの応用が可能になる様子を示しているIT系の大企業も動き始めています。マイクロソフトはR3 CEV社による金融機関向けのブロックチェーン技術の実証実験に協力しています。実験にはクレディ・スイス、HSBCなど世界的な銀行11行が参加しました。同社のクラウド「Microsoft Azure」上の仮想プライベートネットワークでブロックチェーン技術「Ethereum」を稼働させて、BaaS(Blockchain as a Service)と呼ぶバックエンドを構築しています。
もちろん、ブロックチェーン技術の使い道はまだまだあります。例えば電子政府分野への検討も始まっています。またIBMは、サムスンと共同でIoT(Internet of Things)分野にブロックチェーン技術を活用する取り組み「ADEPT」を進めています。
日本国内でもブロックチェーンに取り組むベンチャー企業が出始めています。Orb社は地域通貨の発行などを目指すブロックチェーン技術「Orb」を、テックビューロ社は企業内ネットワークを想定したブロックチェーン技術「mijin」を開発しています。
ブロックチェーン技術でも、フラッシュストレージは縁の下の力持ち
このように注目が高まっているブロックチェーンの分野でも、フラッシュストレージが重要な役割を果たしていることをご存知でしょうか。
ブロックチェーン技術の中で最も実績があり、情報の蓄積が進んでいるのはビットコインのブロックチェーンです。このビットコインのブロックチェーンでは、最近の取引量の増大に伴って性能問題(スケーラビリティ問題)が盛んに議論されています。議論の中心はブロックのサイズやトラフィックを回避させる方法などですが、実はストレージ性能に関する議論もあります。
ビットコインのブロックチェーンの動作でストレージがボトルネックとなる場合は、UXTO(Unspent Transaction Output)と呼ぶコインに関する情報がメモリに格納し切れなくなって、ストレージへのアクセスが発生する場合です。UXTOのサイズは年々拡大傾向にあるので、このケースは想定しておく必要があります。
ビットコインの開発者たちの議論を反映した「Bitcoin Wiki」によれば、フラッシュストレージを使うことでストレージへのアクセスによる性能低下の心配はなくなると考えられています(参考資料)。 ブロックチェーン技術においても、高速のストレージは大事な意味を持っているのです。