NVMe/NVMe over Fabricsが変える新しいストレージの姿とは?
「NVMe」をサーバーの外まで延ばしてストレージアレイに接続することを可能にするのが「NVMe over Fabrics」だ。従来よりも高速なストレージアレイが実現するだけでなく、次世代のストレージ基盤にもなり得る。
3年前の当コラムが予見したストレージの姿は、果たして?
ここ5~6年のストレージは、記憶媒体がハードディスクドライブからフラッシュメモリへと移行することによって、劇的と言ってもいいほどの大きな性能向上や高密度化を遂げてきました。
ストレージのアクセス速度が劇的に高速化されたことに合わせて、重複排除などのデータ圧縮技術がプライマリストレージで当たり前に使われるようになり、一方でHDDでの利用を想定したSATAやSCSIといったインターフェイスが、SSDの普及によって時代遅れになろうとしています。
3年前、当コラムに掲載した記事「普及期を迎えたフラッシュストレージの「現在と将来像」」では、こうしたストレージの進化を見据えて、エンタープライズ市場においてオールフラッシュストレージが主役となるタイミングがついに到来し、それとともに今後のストレージ媒体へのインターフェイスはSATAやSASに代わって「NVMe」が普及していくだろう、ということを紹介しました。
そして現在、この3年前の記事を書いた時点ではまだ市場に存在していなかった、NVMeをサーバーとストレージの間で用いてSAN(Storage Area Network)を実現するNVMeのファブリック機能「NVMe over Fabrics」や、メモリのように高速にアクセスできてストレージのように大容量に使える「Storage Class Memory」(ストレージクラスメモリ)などを備えた製品も市場に登場し始め、ハイエンド製品におけるメインストリームの道を進みつつあります。
主要ストレージベンダーはすでにNVMe over Fabricsへ対応
ここで、東京エレクトロンデバイス(TED)が扱っているPure Storageの製品を例にしてみましょう。TEDは2017年にフルNVMe対応のオールフラッシュアレイ「FlashArray//X」をリリースしました。これによって、ストレージ内部のコントローラとSSDがNVMeで接続されます。
そのうえで2018年、NVMe Over Fabrics対応の「FlashArray//X」の新シリーズをリリース。これにより、サーバーとストレージアレイの間もNVMeで接続可能になりました。
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Dell EMCも2018年、NVMeにフル対応したハイエンドストレージの「PowerMax」を発表。この製品も登場時点で“NVMe over Fabricsレディ”を謳っており、2019年9月になって「NVMe over Fabrics対応」が正式発表されました。NetAppも2018年、同社のストレージOSである「ONTAP 9.4」を発表したときに「NVMe over Fabrics対応」を発表しています。
このように、ストレージの各ベンダーがNVMe over Fabricsの実現を順調に進めてきました。
まるでDASのようにストレージアレイがサーバーにつながる
HDD向けに策定されたインターフェイスであるSATAやSASではSSDの高速なアクセス性能を十分発揮できないことから、NVMeはPCIeバスを基にSSDに最適化した高速なストレージインターフェイスとして策定されました。そして「DAS」(Direct Attache Storage)、すなわちサーバーに内蔵するSSDのインターフェイスとして用いられたわけです。もちろん、いまでもその用途で広く使われています。
NVMe over Fabricsは大まかに言えば、そのNVMeをサーバーの外にあるストレージアレイにまで延ばして接続できるようになるわけです。FC(ファイバーチャネル)、Infiniband、イーサネットなどを物理的なネットワークとして用い、RDMAのような高速なプロトコルを用いてデータ転送できます。途中でのプロトコル変換などの手間が減ることで通信効率も高く、またNVMeはCPUへの負担が小さいとされているため、サーバーのCPUの利用効率も向上することが期待されています。
NVMe over Fabricsを用いることで、DASと同じようにサーバーとストレージが最初から最後までNVMeを用いて高速に接続されることになり、従来よりも低レイテンシで広帯域な共有ストレージアレイが実現できます。
今後、NVMe over Fabricsは共有ストレージアレイを構築するうえでデファクトスタンダードな技術になることは間違いないでしょう。
SCMがSSDの高速なキャッシュとして使われ始める
NVMe over Fabricsによって実現できる高速なストレージアレイを基盤として、今後はSSDよりもさらに高速な不揮発性メモリ、すなわちストレージクラスメモリ(SCM)を用いてオールフラッシュよりもさらに高速なストレージアレイを実現する動きが出てきました。
ストレージクラスメモリとは、DRAMよりもやや遅いけれども、フラッシュメモリよりも高速にアクセス可能な記憶媒体です。現時点ではIntel DC persistent memoryが利用可能かつ唯一の選択肢と言えますが、今後は他の選択肢が登場する可能性もあります。
すでにいくつかのストレージベンダーは、オールフラッシュストレージのキャッシュとしてストレージクラスメモリである「Intel DC Persistent memory」を搭載するという方針を明らかにしています。
SSDがHDDと比べてまだ大幅に高価だった頃、HDDのキャッシュとしてSSDを搭載することでストレージを高速化した製品が相次いで登場しました。現在はSSDに比べるとストレージクラスメモリは大幅に高価ですので、今度はSSDのキャッシュとしてストレージクラスメモリを使うことで、コストを抑えつつストレージの高速化を実現しようとしているわけです。まさに“歴史は繰り返す”です。
そして数年かけて、ストレージクラスメモリの量産が軌道に乗り安価になってきたとき、「オールストレージクラスメモリ」のストレージが登場するのかもしれません。
NVMe over Fabricsは高速なストレージアレイを実現するだけでなく、そうした次世代のストレージを生み出すための基盤技術と言えるでしょう。
※本記事は東京エレクトロンデバイスが提供する不定期連載のタイアップコラムです。
※会社名および商標名は、それぞれの会社の商標あるいは登録商標です。
※このコラムは不定期連載です。
※会社名および商標名は、それぞれの会社の商標あるいは登録商標です。
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新野淳一/Junichi Niino
ブログメディア「Publickey」( http://www.publickey1.jp/ )運営者。IT系の雑誌編集者、オンラインメディア発行人を経て独立。新しいオンラインメディアの可能性を追求。